COCと独立経営<761> 昭和の教え「1㍑5円のSS経営」 -関 匤

ガソリンは減販が常態化してピーク比で3割も市場が縮小しました。分母のSS数が減少して伸びていた平均月販(残存者利益)も一昨年から減少に転じています。SS経営におけるガソリンの位置付けを考え直す必要があると考えるのですが、業界世論は「ガソリン大事」の度を強めているようです。

昭和の成長期の方が経営者の頭は柔軟だったと思うのは、昭和40年代の業界誌を呼んだからです。後にケーヨーホームセンター(現・ケーヨーデーツー)設立者となった岡本正さん(故人)が連載記事を掲載しています。当時、岡本さんは千葉県の京葉産業専務として直営10数店を統括していました。

その岡本さんが書いた連載のタイトルは「一㍑5円のSS経営」です。

当時はフルサービスでSS平均ガソリン月販は50㌔㍑程度の時代です。業界に相当の刺激を与えたようです。しかし誌面を眺めると、当時の経営者たちは岡本さんの1㍑五円で成立するSS経営というメッセージを受け止めているのです。

岡本さんの真意は「ガソリン利益に依存するな」であり「1㍑5円粗利で安売りしよう」ではありません。セルフを視野に入れて、カーケアセンター構想を述べていました。給油時についでに売れる水抜きやケミカル商品などお駄賃油外から脱却して、投資利回りが見込める事業戦略を述べていました。

連載で、当時急成長していたHCでオイルを月10㌔㍑売る事例を紹介して「FO比で逆算したらガソリン1千㌔㍑の実力」と述べて、SSの業態転換を主唱していたのです。刺激を受けた経営者が、随所で石商とは別に任意の研究組織を立ち上げていました。

半世紀後の令和の時代に、誰かが「1㍑5円のSS経営」を油業報知新聞で説いたらどうなるでしょうか。コロナ相場を経験して以降、「市況は宝だ!」の大合唱ですから、相当の反発を食らうことでしょう。私の偏見かも知れませんが、岡本さんの時代どころか戦前の割烹着姿でガソリンガールが給油した時代に逆行しているように思えます。

岡本さんの考えは、オイルショックで雲散霧消しました。そしてSS業界と訣別して、自らHC経営に転進してしまいました。

岡本さんが主唱したカーケアセンター戦略は運輸行政の規制が厳しい時代でしたが、1995年に車検が自由化されたことでカーケア構想のインフラが一気に整備されました。誰もが車検―給油―洗車―オイル交換―車検…というビジネスサイクルを考えて、系列非系列を問わず車検を軸としたSS経営を展開する動きが広がりました。元売は系列戦略としてプログラム化しました。欧米がコンビニ業態のセルフ化であったのに対して、カーケアセルフが「日本型セルフ」の象徴となっています。

しかし、岡本さんの時代よりはるかに恵まれた環境の中で四半世紀が経過して、カーケア構想を本当にモノにできたSSはどれほどあるのでしょうか。私の感覚では一部の“炎の経営者”を除いて、「日本型カーケアセルフ」が確立できていません。

一方で、「1㍑5円経営」を実現しているのが、皮肉にも新規参入組です。カーショップや車販、整備企業です。彼らはカーケアのビジネスモデルは作り上げています。新規の集客と既存顧客の利便性向上として給油機能を活用しています。自動車関係の新規参入はまだまだ増えると予感します。COCにもいますから。

ようはコモディティのガソリンはお金さえあれば誰でも売れるのです。一方、顧客が納得しないと売れないカーケアでは経営者がどういう商品設計とサービス体制を作るかに知恵を注ぎます。コモディティではなく商品力の世界です。その対価として高い利益が得られます。

逆にSS業界のカーケアは車検市場に新規参入した時に、価格と台数にこだわりました。大々的に車検安値看板を掲示し合っていました。コモディティ発想です。ガソリンを経営の「ご本尊」に仰ぐから、(元売の優秀SS表彰基準の)効率と数量が物差しとなるのです。この宿痾から脱しない限り、ガソリン縮小時代の「1㍑5円経営」はありえません。

COC・中央石油販売事業協同組合事務局

 


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