vol.751『白い巨塔』

日本のテレビドラマは、大抵次の三つが舞台となっている。警察・学校・病院。旬の俳優やタレントが警官(刑事)か先生か医師を演じていれば、それなりに視聴率が取れるらしい。その中でも、繰り返しリメイクされるのが「白い巨塔」だ。

大学病院の権力闘争を描いた山崎豊子原作の小説が1966年に映画化されたのを皮切りに、テレビドラマとして何度も制作されて、その都度高い視聴率を獲得してきた。このたびも、五夜連続ドラマとして放映、主人公の浪速大学病院・第一外科部長 財前五郎を演じるのは岡田准一。

物語は、前半は大学病院内の教授選考をめぐるドロドロの派閥争い。手段を選ばぬ財前は念願の地位を手にする。後半は、本来、仁術であるべき能力を、自らの名声を追い求めるために誤用した財前の挫折と死を描いている。

むかしもいまも、大学病院の医局員の給料は、悲しいほど少ないそうだ。開業医院を“街医者”と見下しながらも、稼ぎはといえば開業医のほうが断然上。貧しい母子家庭から人一倍努力して医師となった財前は外科医師として天才的な能力を持っていたが、教授ポストを手に入れるためには実力よりもカネがものを言う。財前は産婦人科医院の娘婿となり、その財力で学内の実力者たちを篭絡、権力の座にのし上がってゆく。

とにかく、財前という男は、人間的には全然尊敬できない嫌なヤツなのだが、いわゆる“悪の魅力”を強烈に発散させ、読者の、そして観客の心にある欲望を刺激し、誘惑してくる。また、様々なキャラクターが登場し、「忠臣蔵」みたいなオールスタードラマとなるのも、人気を保ち続ける理由ではないだろうか。

原作が発表されてから五十年余りが経ち、医療はそれなりに進歩したし、医師に対するコンプライアンスも強化されてきたが、やはりこの物語のインパクトは大きく、いまだに“医者っていうのは金持ちはちゃんと診てくれるけれど、そうでない人たちには不親切なんだろうな”という不信感が拭いきれないでいる。(笑)

いつの時代も、どんな組織でも、権力闘争は必ずといっていいほど生じる。会社が社長派と専務派に分かれていがみ合っているなんて話ははいて捨てるほどある。組織に所属していれば、否応なくそうしたことに巻き込まれ、上司の顔色を伺いながら仕事をせざるを得ない。「仕事は好きなんだけれど、人間関係に疲れた」という理由で職場を去る人は少なくない。

逆に、財前のように、野心をたぎらせ、出世のためならお世話になった人や友人であっても平気で裏切り、のし上がろうとする人もいるかもしれない。それはそれで、ひとつの生き方ではあるが、その代償は決して小さくないだろう。「白い巨塔」では、権力の座を手にした財前に“天罰”が下る。“医者の無用心”よろしく、末期がんに侵され無念の死を迎えるのだ。

がむしゃらに働いて富や栄光をつかんだのも束の間、病に倒れる人は古今東西、星の数ほどいることだろう。もし人間の寿命を売り買いできるとしたら、一年分幾らぐらいの値が付くのだろうと考えたりする。人間長生きすればいいというものでもないのだが、願わくは、財前のように、後悔の念に責めさいなまれながら死んでゆくことのないようにしたいものだ。

これまでに、田宮二郎、村上弘明、唐沢寿明らが、この「アンチヒーロー」を演じて人気を博してきたが、私がキャスティングするなら財前役は玉山鉄二か長谷川博巳に演らせてみたい。ハリウッド版ならライアン・ゴスリングあたりで─。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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