vol.640『サービスのあり方』

サービスのあり方について考えさせる出来事が年末に相次いで生じた。
まず,12月6日の昼ごろ,「佐川急便」のユニフォームを来た男性が,強風にあおられた集荷物を拾いに行ったあと,大きく振りかぶって地面にたたきつけたり,台車を何度も投げつけるなどしている様子の動画が「YouTube」に投稿され,波紋を呼んだ。ネット上では,運転手個人だけでなく,佐川の企業体質を非難する意見が多数寄せられた一方,「ドライバーさんもこんなになる程忙しいのか」など同情的な声もあったそうだ。
次は,12月24日のクリスマスイブに,ピザチェーン「ドミノ・ピザ」が予約注文がさばけずに大混乱し,客がキレ,店員が泣き出し,警察が出動した,といったことが各地のツイッターユーザーから報告された。ドミノが展開した,お持ち帰り限定の「1枚買うと1枚無料」キャンペーンを目当てに客が店頭に殺到したうえ,予約注文のシステムがダウンしたことが重なり“大惨事”となったらしい。待たされた客からは,「クリスマスパーティーできないだろうが!」といった怒号や,返金を要求する声があがっていたと報じられている。
極めつけは次のニュース。『厚労省東京労働局は28日,広告大手「電通」と幹部社員1人を,社員に違法な長時間労働をさせた労働基準法違反の疑いで書類送検した。この幹部は,インターネット広告を扱う部署で,昨年末に過労自殺した新入社員,高橋まつりさん(当時24)の直属の上司だった』(12月28日付「朝日新聞」)。東京労働局は記者会見で,注目度や事案の重大性を鑑み,異例のスピード立件に踏み切ったことを認めた。その日の夜には,電通の社長が辞任を表明している。
世界が驚愕する“おもてなし”の国,ニッポン。しかし,そのシステムを維持しているのは生身の人間であり,限界がある。荷物をたたきつけた宅配業者は言語道断である。しかし,例えば,時間指定された荷物を,エレベーターのない集合住宅の3階まで届けに行ったら「留守」。受取人から再度日時を指定されて届けに行ったら,またしても「留守」,というようなことが続くと,キレそうになるかも。しかも,ネット通販の需要は激増しており,宅配便スタッフの増員数をはるかに越えている。サービスの内容と規模に人が追いついてゆけないのだ。
ピザの事件は,国民の暮らしがまだまだ“ゆとり”のない状況であることを垣間見せた。クリスマスの夜ぐらい,少し贅沢しようなどと考えるのではなく,むしろ,少しでも安くたくさんピザを買おうという人たちが,予想をはるかに上回ってしまったのだ。サーバーがパンクし,機能不全に陥った店舗は,凶暴化した客に取り囲まれてしまった。当日,対応に当たったスタッフはどれほど怖く,長い夜を過ごしたことだろう。ずさんなオペレーションを行なったチェーン本部の責任は重いと思う。
「電通」の問題は,悲惨の一言に尽きる。自殺するまで追い込まれた新人社員が,実際,どのような環境で働いていたのかわからないが,人間味のある気遣いや優しさの欠片もなかったであろうことは,容易に想像がつく。そんなものを職場に持ち込んでいたら,厳しい競争社会の中で勝ち残れないのだろう。こうした悲劇はこれからも繰り返されてゆくに違いない。
顧客の要求に,より速く,より安く,より忠実に応えようとする時,そのしわ寄せが,世界最高水準のサービスを懸命に維持している現場のスタッフを苦しめ,苛立たせ,場合によっては死へと追いやってゆく。GS業界も他人事ではない。お客様は大切にしなければならないが,果たして,とどまることを知らない要求に応え続ける必要が本当にあるのか。年頭から仕入価格は続騰しているにもかかわらず,価格を上げるどころか,下げる店までいる有様。いまから百年以上前に,石川啄木は私たちサービス業に携わる人間の悲哀を予見するかのごとき歌を詠んだ。『はたらけど はたらけど猶 わが暮らし 楽にならざり ぢつと手を見る』(「一握の砂」より)。今年もどうぞ宜しくお願いします。

セルフスタンドコーディネーター 和田 信治

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