vol.766『イートイン脱税』

消費税が10㌫となる前日、駆け込み給油で店頭が混雑するかと身構えたが、まったくの杞憂に終わった。何人かの同業者に聞いても“まったくの肩透かしだった”とのこと。テレビでは家電量販店やホームセンターなどは賑わっていたようだが、ガソリンは買い置きができない商品。しかも、増税直前に起きたサウジ製油所空爆で原油価格が高騰したのをきっかけに、増税分も見込んでの値上げが済んでいたこともあって“明日になっても大して上がりはしないだろう”と消費者に見透かされていた感もある。

ただ、増税直後に給油に行くのも、何だか癪に障るということなのだろうか、この一週間の売上げは通常より少なかった。だが、ここで焦って価格を下げるのは愚の骨頂。幸い、高騰した仕入れ価格も下落に転じ、マージンは“いい感じ”になってきている。お客のガソリンタンクが軽くなるのを辛抱して待っていれば、売上げは戻ってくることだろう。ここは、思慮深く、辛抱強く行動すべきだと思うのだが…。

食料品については、軽減税率が適用されるため、10月以降も8㌫のまま。とはいえ、物流コストをはじめ、様々なものが値上がりしている訳だから、本体価格は値上げせざるを得ない。増税の影響は、これからじわじわと生活に響いてくるに違いない。一方、コンビニなどでは、同じ食料品でも、テイクアウトは8㌫、イートインなら10㌫という法が定められた。しかし、知ってか知らずか、8㌫で購入した商品を、店内で食べる「イートン脱税」なるものが横行しているという。

これについて国税庁は、「倫理上どうなのかという観点は別だが」と前置きした上で、「軽減税率が適用されるかどうかの判定は、事業者が客に飲食料品を譲渡した時点で行われる。コンビニではレジで飲食料品を販売した時点で判定されるため、(その後に客が店内で飲食していたとしても)制度上の問題はない」、つまり、法律違反ではないとしている。商品代を先にいただく限りは、お客の自己申告に委ねるよりほかない、というわけだ。ただ、常習的に行なっていた場合は詐欺罪が適用される可能性もあるという。

ネット上では、「イートイン詐欺」を見かけると、店の従業員に「あの人、店で食べると申告しなかったのに、イートインコーナーで食べてますよ」とわざわざ教えに来る「イートインポリス」なる者の存在が話題になっている。店の従業員にとっては、これが結構ストレスになるらしい。確かに、倫理的には間違っているが、店側としては営業に支障がない限り、客ともめるのは極力避けたい。「イートインポリス」も、店にではなく、“脱税”しているご本人に忠告してもらいたいが、確信犯的な客はそれなりの輩だから、店内で喧嘩が始まる可能性は大だ。

まったく困ったものである。私たちの業界では、こんな問題はないが、例えば、いまは任意とされている、ガソリンを携行缶で購入する客への身分証の確認も、相手によってはスタッフに危害が及ぶこともあり得る。対応を誤れば、ネット上で“炎上”してしまう恐れもある。使途について尋ねることだって、相手の自己申告を受け入れる以外になく、100㌫ 倫理的な問題だ。京アニ事件の犠牲者が、先日新たに1名増え36人となり、改めてガソリンが大量殺戮兵器となりうる事を思い知らされたのだが、GS業界では、店頭での確認や監視を強化させても、同様の事件を完全に阻止することは不可能とみられている。ここはむしろ、ガソリン携行缶の購入者は個人情報を登録するなどの規制強化が必要かもしれない。「イートイン脱税」の問題も、ガソリンの携行缶による購入の問題も、業者に対応を押し付けるのではなく、制度を作った行政当局が然るべき措置を講じるべきだろう。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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