vol.774『カスハラ』

日本テレビ系情報番組「スッキリ」(月~金曜・前8時)では、常識を越えた悪質クレームや迷惑行為をするカスタマーハラスメント(カスハラ)を特集したところ、2週間あまりで100件以上の声が寄せられ、そのうちの6割以上が販売業と飲食業だったそうだ。ガソリンスタンドに勤務していた男性の体験談─。

『女性客から洗車と車内掃除を頼まれ対応したところ、「キレイになっていない」など声を荒らげてクレームを受けた。その後、やり直して料金は無料にしたところ、女性が3日後に再び来店し、また洗車と車内掃除を頼まれたが、後部座席に魚のトレーなどの大量の生ごみや、犬のふんがそのまま放置。一般ごみは引き取らないが今回だけと対応。すると、その後も3日おきに来店してくるようになり、男性従業員は「うつ病」と診断されたという』─12月10日付「スポーツ報知」。

聞いているだけで、胸が締め付けられるような恐怖体験だが、昨今こうしたカスハラが増加しているという。背景には、他人に不寛容になった社会があると指摘する心理学の専門家もいる。また、企業の「顧客第一」の姿勢が誤って伝わり、「客なら何でも許される」という風潮につながっているのかもしれない。年末の繁忙期に入ったGS業界で、このような悲惨な出来事を防ぐためにはどうすればよいのか─。

クレームコンサルタントとして1、000社を超える企業を指導しているという山下由美氏によると、悪質なクレーマーは次の三つに大別されるとのこと。まず、怒鳴って相手を委縮させることで要望を通そうとする「闘犬型」。優しい言い回しをしながら個人のミスを執拗に攻め、「SNSで拡散されたら…」などと大事にすることをほのめかす「ヘビ型」。こちらの対応に合わせて手の内を変えてくる「シナリオ型」。夫婦など複数人で仕掛けてくるパターンが多いのだという。

もちろん、すべてのクレームがカスハラというわけではない。クレームとカスハラの違いについて、危機管理コンサル会社「エス・ピー・ネットワーク」は、「明確な定義はないが、2~3時間も文句を言い続けたり、金銭や土下座を要求したりするのは明らかにカスハラ」と定義し、「クレームは意見が正しく企業側が改善されることもあるが、カスハラにはない」と断じている。そして、カスハラ対策については、「意見は否定せず要求は聞かないこと」だという。最初は丁寧に接し、不当な要求をされたら毅然とした態度で接することや、同僚を呼んだり「上司や弁護士と相談して回答する」と告げて組織として対応するのもポイントだという。

しかし“言うは易く行なうは難し”である。目の前で面罵され、恫喝され、恥辱と恐怖を感じながら、上記のように冷静に対応するというのは簡単ではない。それに、「闘犬」や「ヘビ」に襲われた時、会社が、つまり経営者や管理職が自分を守ってくれるかどうか、いまいち確信が持てないと、毅然とした態度を取ることができず“野獣”の餌食になってしまう。企業には労働者への安全配慮義務がある。カスハラに対する姿勢を明確にし、現場の個人任せにせず、組織として対応しなければならない。

かつては“叱ってくれるお客様は大切にしなくてはいけない。笑顔で何も文句を言わずに店から出て行って、もう二度と来てもらえないのが一番怖ろしい”と教えられた。確かそうなのかもしれないが、自制心が損なわれ、攻撃的となっているいまの世の中では、接客は時に命がけだ。今年一年を振り返っても“むしゃくしゃしたからやった”といった身勝手な動機で、どれだけの人が殺されたり、身体や精神に傷を負ったことか。GSで日夜接客に勤しむ老若男女のみなさん。どうかくれぐれも邪悪なクレーマーに気をつけて、安全第一でお仕事に励んでください…。

 

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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