vol.779『アウトブレイク』

27日正午現在、中国全土を恐怖のどん底に陥れている新型コロナウイルスによる感染者数は2744人(中国国内のみ)、死者は80人(同)となった。人口一千万都市・武漢の市場が発生源とされており、ニュース映像ではゴーストタウンと化した武漢市内の様子や、治療を受けようとする人々であふれかえりパニック状態となっている病院内の様子などが流され、事態の深刻さを報じている。日本でもこのウイルスにより肺炎を発症した人が4人確認されている。(27日現在)

当初“感染力は弱い”とか“ヒトからヒトへの感染はない”などと言われていたが、あれよあれよという間に国全域と世界十数カ国に拡がっていった。折りしも中国は旧正月の大型連休の時期と重なり、すでに武漢市から5百万人が国内外に移動しているとのこと。中国政府は空港や鉄道などを封鎖し移動を制限するなど対応に躍起だが、後手に回ったことは誰の目にも明らかである。地方指導部が中央政府にうその報告をしたとか、中央政府担当者が情報を隠蔽したとかいろいろ言われているようだが、いまはそんな事を言っている場合ではない。とにかく、早いとこワクチンを開発しないといけない。

毎年、この時期、日本には中国から100万人近い旅行客が訪れるらしいのだが、中国政府の渡航禁止令で経済的な打撃は5千億円に上るとの推計もある。それでも、連休前半に相当数の中国人旅行客が訪日しているため、中部国際空港を構える地元愛知県でも4番目の国内発症者が確認されてしまった。感染初期は症状が軽くて隠れた感染者が多くおり、防疫が難しいそうで、それだけ他の人に広める機会は増えると専門家は見ている。潜伏期間は10日前後だそうだから、来週のいまごろには、日本でもどれぐらいの人が感染したかが明らかになってくると思われる。

日本各地の観光地では、ホテルや店舗の従業員がマスクをして接客し、各所に除菌スプレーを配置するなど感染拡大を防ごうと手を尽くしているようだが、ニュースでその様子を見ていて私が思い浮かべたのは、スピルバーグの出世作にして、映画史上不朽の傑作、『ジョーズ』(’75年・米)。巨大な人食いザメの仕業と思われる女性の惨殺死体が浜辺に打ち上げられ、町の警察署長は海岸を閉鎖しようとするが、市長ら町の有力者たちに“これから書き入れ時の海水浴シーズンが始まるのに、そんな事をされては困る”と圧力をかけられる。やむなく見張りを強化するなどしてビーチを開放するが、第2、第3の犠牲者が…。

いまさら解説する必要もない大ヒット映画のこのくだり、何となく今回のウイルス禍に対する日本のスタンスに似ているように思えてならない。経済的損失を恐れるがあまり、未知なる敵に対して生半可な対応を取っていると、被害を拡大させてしまうことになりはしまいか心配である。一方、来日中の中国人観光客も気の毒なことだ。束の間の休暇が終わったら、緊迫した母国に帰らなければならない。高品質の日本製マスクを爆買いする人たちの心中は察するに余りある。

『ジョーズ』を紹介したついでに、映画の話をもう少しさせてもらうと、やはり『アウトブレイク』(’95・米)を挙げざるを得ない。アフリカ奥地で捕獲されたサルが密輸業者によって米国に持ち込まれる。そのサルは致死性の高いウイルスを宿していたため、とある地方都市で感染爆発を引き起こす。町は軍によって封鎖され、住民たちは次々と死んでゆく。ワクチンの開発が進まない中、合衆国政府が決断した“解決方法”とは─。個人的評価では凡作の域を出ない作品だが、いま見ると背筋が寒くなること間違いない。どこかの映画館が上映しようとしたら、不安を煽るとしてお上から差し止めを食うかも。ご覧になりたい方はレンタルビデオ店へどうぞ。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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