vol.642『大統領!』

このコラムでも、何度か取り上げているタイムトラベル映画の傑作、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(’85米)。1955年のドクに出会ったマーティが、あなたの作ったタイムマシンに乗って1985年の未来からやってきたんだといっても信じてもらえない。そこでこんなやり取りがある。「じゃあ、聞くがな。未来少年くん。1985年のアメリカ大統領は誰だ?」 「ロナルド・レーガンだよ」 「ロナルド・レーガン!俳優の!?じゃあ、副大統領はジェリー・ルイスか!? 大統領夫人はさしずめジェーン・ワイマンってとこだ!」─というわけで、余計に信じてもらえなくなってしまうという笑えるシーンなのだが、事実は映画よりも奇なり。まさかあのビフのモデルとなった不動産王が2017年に大統領になるなんて!

このところ連日、あらゆるメディアが“トランプ政権が、こうする、ああする”“今後日本は、こうなる、ああなる”と予測・推測・憶測の大論陣を張っているが、実際のところ、だれも先のことなど分かりはしない。例えば、米国の著名な投資家、ジョージ・ソロスは、トランプが大統領選に勝利した直後から、大方の予想に反して大幅な株高となったことで、10億ドル(約1,100億円)近い損失を出したらしい。そうかと思えば、大統領就任式後、最初の取引が行なわれた東京株式市場は、トランプ大統領の保護主義的な通商政策への懸念などから250円近く下落した。
これから先、トランプ大統領が吼えたり、呟いたりするたびに、株価や原油価格が上下することになりそうだ。何となく、吉田拓郎の曲『ひらひら』の歌詞を思い出した。「商売・取引うまく行くのは ほんとの話じゃなくて どこかで仕入れたうわさ話」。今後、我々の業界においても、「トランプ政権のエネルギー戦略」とか、「2017年の石油市場動向を読み解く」といった類の講演会が喧しく催されることだろうが、話半分ぐらいに聞いておいたほうが良いだろう。『ひらひら』のサビの歌詞はこうだ。「ちょいとマッチを擦りゃあ 燃えてしまいそうな そんな頼りない世の中さ」─。

とはいえ、「アメリカがくしゃみをすれば日本がかぜをひく」と言われるとおり、政治・経済・軍事・文化など様々な分野で、とかく日本はアメリカの強い影響下にある。アメリカの利益が最優先、それを妨げる奴は排除するとあからさまに言い放つ大統領の登場で、米国市場でたんまり稼いできた多くの日本企業の心中や如何に。また、トランプ大統領は、公約どおり、就任後、速攻でTPPからの離脱を表明した。TPP批准をテコにした成長戦略を描いていたアベノミクスの行方や如何に。
ただ、それもこれもどうなるかわからない。はっきりしていることは、世界はこの先ますます混沌としてゆくということ。揺れ動く海のような世界にあって、日本の石油業界は損するのか、得するのか。系列内にとどまるべきなのか、独立系の道を歩むべきなのか。はたまた、系列に回帰すべきなのか。拡大路線をとるべきか、守りを固めるべきか。“脱石油”なんて言っている人もいるが、じゃあ、石油を脱いだあと、何を身に着けたらよいのか。そんなこんな考えていると、春日三球・照代の漫才みたく、「夜も眠れなくなっちゃう」。これほどまでに、将来への不安をかきたてる人物が現れるとは。やはり、米国大統領とは大きな存在なのだなと改めて思い知らされた。

結びも映画の話で。米国大統領が未来に及ぼす影響を描いた映画といえば、私は真っ先に、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『デッドゾーン』(’83・米)を挙げる。交通事故で5年の昏睡状態から覚めた男は、手に触れた相手の未来を予知出来るという超能力を持つようになった。彼は、ある国会議員と握手した時、その男がやがて大統領となり、核兵器のスイッチを押すことになることを知ってしまう。主人公が苦悩の末にとった行動は…。ストーリーの面白さに加え、主演のクリストファー・ウォーケンが超能力者の孤独と悲哀を見事に演じ、単なるSFスリラーではなく、見事な人間ドラマに昇華させている。傑作です。

セルフスタンドコーディネーター 和田 信治

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