vol.797『スペースジェット』

『国産初のジェット旅客機スペースジェット(旧MRJ)を開発中の三菱航空機が、業績の悪化に伴い進めている体制縮小の全容が12日、分かった。約2千人の従業員を半分以下に削減し、海外拠点は米西部ワシントン州の試験拠点1カ所を除いて全て閉鎖。開発責任者も刷新する』─6月12日付「共同通信」。

2008年に「三菱リージョナルジェット」として、国内初のジェット旅客機の開発・製造プロジェクトがスタートし、当初2013年に初号機が納入される予定だったが、度重なるシステムの不具合とそれに伴う設計変更・調整が続き、いまもって型式証明、つまり機体の安全性を証明するお墨付きを取得できずにいる。その間に、米国のトランス・ステイツ航空が50機、イースタン航空が20機の購入契約をキャンセルするなど、プロジェクトは窮地へ追い込まれつつあった。

2019年、名称を「スペースジェット」に改め、満を持して型式証明取得並びに量産体制確立を目指した矢先に、今回のコロナ禍。三菱航空機は昨年、今後20年間の世界の航空機市場で、100席未満のリージョナルジェットの需要は約5000機と予測していたという。年間250機だが、コロナショックによって、人の移動が減ることが「ニューノーマル」になれば、航空機需要そのものが大幅に減るかもしれない。すでにタイ国際航空やオーストラリアのヴァージン・オーストラリア航空は経営破綻してしまった。激変した航空業界において、晴れて型式証明が取得できたとしても、当初の目論見どおり機体が売れる可能性は狭まってきている。

実は、この「スペースジェット」のプロジェクトの経緯が、我が事のように思えた時期がある。新しいホームページで紹介させていただいているとおり、リライトカード方式のセルフ給油システム「エルシーシステム」を昨年リリースしたのだが、このプロジェクトを立ち上げたのは2016年。旧式のリライトカード方式のシステムを使っていた複数のセルフGSから、後継機の製作及びスマホ決済のオプション機能の開発の相談を受け、関西の電子機器メーカーと組んで製品化を目指した。

当初は1年以内に製品化できるとの見通しだったが、結局初号機納品までに2年、オプション機能を搭載した新型機納品までにさらに1年もの歳月を要した。その主な原因は電子機器を製品化するのに必要な産業技術総合研究所、通称「産総研」の証明書がなかなか取得できなかったからだ。メーカーは難なく認証が取れると思っていたようだが、いざ試験を受けてみると、あそこがダメ、ここがダメということになり、リリースがどんどん遅れていった。スケールは比較にならないが、“MRJがまた型式認証が取れず納期延期”と報じられ、受注契約がキャンセルされたというニュースを聞くと、「エルシーシステム」も同じ道を歩むのではないかと不安になった。そのせいか、一昨年の夏に大腸憩室炎で十日余りの入院も経験した。幸い、「スペースジェット」より早く世に出すことが出きたものの、モノを造るということは大変なことだと実感した。

「スペースジェット」の親会社、三菱重工の今年3月期通期の連結決算は、本業のもうけを示す事業損益が295億3800万円の赤字となり、20年ぶりに赤字転落。すでに8000億円もの開発費を投じた「スペースジェット」の会計上の資産価値をゼロに落とした。もはや絶体絶命ともいわれる「スペースジェット」だが、勝機がないわけではない。航空アナリストの鳥海高太朗氏によれば「航空会社が新規に航空機を買う余力は限られるが、国際線より国内線の方が早く回復するするので、大型機より小型機の方が影響は小さい。スペースジェットが今できることは、早く型式証明を取り、市場の回復を待つことだ」と。(6月9日付「毎日新聞」) 果たして「スペースジェット」は、コロナの暗雲を引き裂いてテイクオフできるだろうか─。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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