vol.802『経済という名の列車』

残念ながら、新型コロナウイルスは、衰えるどころか、ますます勢いを増している。先週、世界の累計感染者数は1300万人を突破。ブラジルやインド、南アフリカなど、医療体制が脆弱な新興国において「5日で100万人」というハイペースの増加が続いている。一方、 感染者数・死亡者数共にダントツの米国では南西部の州を中心に感染拡大が加速。日本でも東京都内での新規感染者数が連日200人を超えるなど、先進各国では第二波への警戒が続いている。こんな時に「GoToトラベル」つったって、のんきに旅行に行く気分にはなれないな。旅行者の宿泊費や飲食費を補助するこのキャンペーンのための予算は1兆7千億円。
観光は裾野が広く、地域の様々な業種が繋がって、地域経済そのものになっている。その多くは中小零細企業であり、いまの状態が続けば、地域経済そのものが崩壊しかねない。また、コロナの前から地方銀行の経営状態は厳しい状態にあったため、ひとたび連鎖倒産が起きれば、金融パニックになる可能性もあり、ひいては国全体が経済危機に陥る恐れもある─ということで、政府としては、「GoToトラベル」というアクセルを踏まざるを得なかったのではないか。

 

日本に限らず、世界のどの国においても悩ましいのは「経済」という列車を止めることなく、車内で拡大する疫病にいかに対処して行くかということだ。列車とウイルスと聞くと思い出されるのは、1976年の米欧合作のサスペンス映画「カサンドラ・クロス」。ジュネーブの国際保健機構を襲撃した過激派グループの一人が、銃撃戦のさなかに実験室の病原菌を浴びながらも逃走、パリ経由ストックホルム行きの大陸横断鉄道に乗り込む。発車後、車内はたちどころに病原菌の感染が始まり、パニック状態となる。だが、1000人もの乗客はどの国でも下車することが許されない。なぜか?彼らの終着駅は? 走り続ける列車の中で繰り広げられるアクション&サスペンス。列車内の絶望的な状況は、何となくいまの世の中に似ている。
今年のアカデミー賞で史上初の外国語映画受賞作となった「パラサイト 半地下の家族」の監督 ポン・ジュノが、2013年にハリウッドに招かれて撮ったSF大作「スノーピアサー」は何とも奇妙な映画だった。時は2031年。地球温暖化によって雪と氷に覆われた地上を、生き残ったわずかな人類を乗せ、永久機関によって走り動き続ける列車「スノーピアサー」。前方車両には富裕層・支配者階級が暮らしており、後方車両には奴隷同然の扱いを受ける貧困層がすし詰め状態で生活していた。やがて、後部車両の人々は、理不尽な仕打ちに耐えかね前方車両目指して反乱を起こす。犠牲者を出しながら前方車両に迫る彼らは、やがて恐ろしい真実を知ることになる─。

コロナ禍の世界においても、社会的・経済的に低い階層の人々から犠牲になっている。社会不安はいや増すばかりだ。各国の指導者の頭の中は、どうやってこれ以上経済を失速させないで済むかでいっぱいだろう。暴徒と化した群集が押し寄せてくる悪夢を振り払うためには、感染リスクを覚悟のうえで、なり振り構わず経済対策を打ってゆくしかないのだ。

 

文明崩壊後の世界を描いた映画はたくさんある。宮崎駿の「風の谷のナウシカ」もそのひとつ。核戦争によって汚染された地球で生きる人類の闘いを描いたSFアニメの金字塔だが、“腐海”とよばれる毒の森に怯えながら暮らす人々の姿は、近未来の私たちを描いているのかもしれない。ブルース・ウィリスとブラッド・ピットの競演作「12モンキーズ」(‘95・米)では、謎のウイルスで人類の大半が死滅してしまった近未来から、一人の男(ウィリス)がウイルス感染源を突き止め、拡大を阻止すべくタイムマシンで現代に送り込まれる。ところが彼が「このままでは人類は滅亡する」と訴えれば訴えるほど狂人扱いされてしまう。もしいま、未来から来たという人物が“経済のことに気をとられていたために人類は絶滅してしまった”と説き、経済活動を即刻やめるよう警告したら、人々はどのような反応をするだろう。
おしまいは、SF映画の古典「猿の惑星」(‘68・米)のあまりにも有名なラストシーンで、主人公が“衝撃の事実”を目の前にして発するこのせりふで。『あぁ…何てことをしたんだ!猿どもに笑われるはずだ!人間なんかみんな地獄に落ちてしまえ!」─。

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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