vol.806『コロナ禍における安売り』

『内閣府が17日発表した2020年4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で1~3月期から7.8㌫、年率換算で27.8㌫減った。新型コロナウイルスの感染拡大で、リーマン・ショック後の09年1~3月期の年率17.8㌫減を超える戦後最大の落ち込みとなった』─8月17日付「日本経済新聞」。
予想されていたこととはいえ、やはりただならぬことが起きたのだなという実感。年率換算ということは4~6月期の状態が仮にこのまま一年間続いたら…ということなので、“すわ、所得が4分の3になっちゃう”とあわてる必要はないのだが、7月以降も経済が回復する望みが薄い現状では、不安が拡がることは避けられない。
それでも、先に報じられた米国や欧州諸国の数値に比べればマシだったじゃないか、と言っている人もいるようだが、実際のところ、日本の景気後退はコロナ禍に見舞われる前からすでに始まっていたので、落ち込み幅が若干少なめに見えるだけなのだそうだ。その大きな要因は昨年10月の消費増税であり、いまこそ時限的にでも消費税をゼロにせよとの声が強まっている。

しかし、消費税をゼロにしたからといって、いまさら消費が回復するかどうか。GDPの半分を占めるのは個人消費だが、不透明な状況の中で、庶民は財布の紐を一層固くするだろうし、何よりも、ウイルスに感染したくないから「巣ごもり生活」が定着してゆくだろう。その結果「不要不急」の物は買われなくなる。
ガソリンは必需品であり、通販で購入することもできないが、だからといって“GS業界は大丈夫”というわけではない。例年、夏休みシーズンの移動を見込んでいた行楽地のGSは、大きな痛手を被っている。「新しい生活様式」が浸透してゆくにつれ、ガソリンの販売量は一段と減少すると思われる。だが、こんな情勢でもなお、安売りすれば活路が拓けると信じている業者もいて、市場を悪い意味で「賑わせ」いる。
元ゴールドマン・サックスのアナリストで、日本の文化や経済に造詣が深く、現在「小西美術工藝社」という国宝・重要文化財の補修を手がける会社の社長を務めているというデービッド・アトキンソン氏は、最近の著書の中で「(コロナ禍により) 低価格で商品やサービスを提供することが、社会的善だという日本の常識が“妄想”に過ぎなかったことを多くの日本人が思い知るだろう」と述べている。人口減少によって「多売」が成立しなくなる一方、生産性は低いままなので、社員の給料も低水準のまま。給料が低ければ消費が減り、それが税収に影響を与え、増大し続ける社会インフラコストを賄い切れなくなる─。

“有事”であるいまこそ、だれもが適切な医療や介護を必要としているのに、社会インフラコストの必要性を無視して相変わらず薄利多売に血道をあげている経営者は、国家国民に損失をもたらしているのであって、政府がこれを律するべきではないかとの意見には一理ある。実際、日本のみならず世界の経済がV字回復する見込みは当分なさそうだし、いまは次なる不測の事態に備えて、内部留保に励むほうが賢いと言えるだろう。

ただ、いまはとにかくその日その日をどう凌いでゆくかで精一杯という経営者にとっては、当座の日銭が稼げるなら、赤字覚悟で売るしかないというのも厳しい現実だ。コロナ禍の影響で解雇・雇い止めにあった人は、先月末現在で約4万1千人。彼らもまた、糊口をしのぐためには、安い賃金、過酷な条件であっても歯を食いしばって働くしかない。こうして「負のスパイラル」が続いてゆくのだろうか。やれやれ…一体どこのどいつがなにをやったのか知らないが、とんでもないものが広まってしまったなあ、とつくづく思う。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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