vol.652『新年度』

4月は、日本ではスタートの月。一年のはじまりは1月からなのに、なぜ4月に“再スタート”を切るのかといえば、新しい予算が4月から執行されるため。会計年度を4月から始めることにしたのは明治19年(1886年)から。当時、日本の主たる産業は農業、それも主に稲作だったので、政府が税金として徴収する主な財源も、これに対して課税したもの(地租)だった。稲作の場合、その収穫時期はもっぱら秋。税は物納ではなくお金で徴収したので、秋に収穫した米が現金化されてから徴収し、それが一段落して収入がハッキリした段階で次の年の予算を定めて実行に移すには、4月頃がちょうど都合がよかったというわけ。

もう一つの理由は、当時世界一の経済力を誇った大英帝国の会計年度が4月だったため。前述のような国内事情もあるし、英国に倣って我が国も4月にしようか、となった。では、なぜ英国は4月を新年度としたのか。その歴史は1752年にまで遡る。それまで英国は春分を一年の始まりとする伝統的なユリウス暦に従っていたが、諸外国とのやり取りに不便を覚えるようになり、現在のグレゴリウス歴への移行を断行する。しかし、3月20日をもって一年の終わりとしていた従前の経済活動が混乱するのを避けるため、そのまま会計年度として“別の一年間”を設けることになったというわけ。

つまり、英国も日本も、国家の都合で「年度」というものが定められたのだが、日本においてはちょうど暖かい気候となり活動的になる時期なので、気分的には1月よりも“はじまり”にふさわしい月なのかもしれない。石油業界でも、今年の4月は大きなスタートがあった。売上高11兆円、国内のガソリンシェアの50パーセントを占めるガリバー、「JXTG」の誕生である。しかし、「もともと規模の利益を追求してM&Aを繰り返してきたJXと、製油所の運営効率の高さを競争力の源泉としてきた東燃ゼネラルの事業戦略の違いは大きい」(4月3日付 「日刊工業新聞」)との見方もあり、一応スタートはしたものの、どれほどの統合効果が生み出せるかは未知数だ。

一方、今月から、出光とシェルも統合され新たなスタートを切る予定だった。本来はこちらの話のほうが先だったのだが、ご存知のとおりの騒動でもたついている間にJXに先手を打たれてしまい、一強時代の到来を許してしまった。しかし、繰り返しになるが、事業戦略を異にするJXとTGが一緒になったことでどんな化学反応が起きるかはまだ分からない。合理化が計画通り進まなければ、あるいは予期せぬ情勢に直面すれば、図体がでかいだけにダメージもでかくなる。“大きいことがいいこと”とは限らないのだ。

どのみち、出光とシェルは一緒になったところで、規模においてはJXTGにかなわないのだから、ここは慌てずに、JXTGの様子を伺いながら、また出光創業家の意向も忖度しつつ、「じっくりコトコト」(byブルゾンちえみ)話を煮詰めてゆくのも“あり”かもしれない。とりあえず今年の両社の入社式は合同で開催してみてはいかがだろうか。新年度キックオフも両社系列店で仲良く一緒に。そうやって、裾野から信頼関係を築いてゆくほうがうまく行くかもしれない。

…とまあ、無責任なことを書いたが、1980年代には17社もあった石油元売が、いまや片手で数えられるまでになり、そのうちの一社はガソリンシェアの半分を握るという、日本の石油業界がかつて経験したことのない環境となったことに、私も含め、多くのGS経営者が不安や心配を抱いている。GS業界の“新秩序”は、平和をもたらすのか、新たな争乱を引き起こすのか。独立系GSは、新しい勢力図の中でどのような位置を占めることになるのか。あと一年経つと、日本にセルフGSが誕生して丸20年の節目を迎えるが、私に言わせれば、とても成熟した大人になったとは言えない。セルフはこの先、どこへ向かってゆくのか。春の陽気とは裏腹に、物憂げな新年度である。

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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