vol.663『選択肢』

今月22日に歌舞伎俳優・市川海老蔵の妻で、タレントの小林真央さんが34歳の若さで亡くなった。真央さんは昨年9月から、乳がん闘病中の出来事や心情をブログで公開、その情報発信力が評価され、英国放送協会(BBC)の「今年の女性100人」の一人に選出された。

才色兼備のうえ、歌舞伎界のスターとの間に一男一女。およそ、世の女性が欲するほとんどのものを手に入れたかに見えた彼女を病魔が襲った。普段は気にも留めない陽の光やそよ風がどれだけ幸福感をもたらすかなどという彼女のブログを読んで、“ああ、自分は真央さんよりしあわせなんだな”と再認識する。250万人以上と言われるブログ読者の多くは、そんな同情心と優越感と安堵感がないまぜになった複雑な心情で読んでいたのではないだろうか─。

三十台の若さで余命幾ばくもないと宣告された絶望感は察するに余りある。彼女のブログによれば、31歳の時に夫と共に人間ドックを受けた際、胸のしこりが見つかったという。再検査を受けたところ、『癌を疑うようなものではない、とのことでした』『事前に聞いていた乳腺専門の先生2人の意見と同じで、ほっとしました』とつづられている。

仮に、この時点で、乳がんと診断されても、完治できたかどうかはわからないが、彼女がセカンド・オピニオン(SO)を受診していたら、別の人生を歩んでいたかもしれない。真央さん自身、ブログで『あのとき、もっと自分の身体を大切にすればよかった。あのとき、もうひとつ病院に行けばよかった。あのとき、信じなければよかった』と後悔の念を記している。

欧米に比べ、日本ではまだまだ認知度が低いSOついては、以前このコラムでも取り上げた。GS経営者も“仕入のSO”を行なうべきだと。労を惜しまず、自分の仕入れ価格が本当に適正かどうかを常に比較考量し、経営の健全性を保たねばならない。元売の“権威”を恐れて放っておくと、どんどん体力が奪われてゆく恐れがある。

ところが、石油業界は再編に次ぐ再編により、いまやほとんど選択の余地がない状況になってしまった。ガリバー「JXTG」の誕生で、業転玉は引き締められつつあり、系列GSは元売への“忠誠心”がこれまで以上に試されようとしている。“別のお医者様にも処方箋を書いていただこうと思っているんですが…”などと口にすれば“じゃあ、うちではお薬(事後調整)を一切出しませんよ”と圧力をかけられる。その事後調整も、大病院と同様、有力店が優先され、零細販売店は後回しにされるという図式が強まっている。

前回のコラムで触れた「日経ビジネス」の特集記事によれば、事後調整によって生殺与奪権を握られたことに嫌気がさした旧TG系の特約店が廃業してしまったという。本当にそれだけの理由なのかどうかわからないが、ただでさえしんどいGS経営を、この先、元売の機嫌をとりながらやってゆく気力がなくなってしまったということか。あるいは、旧TG系列内では“エースで四番”だったものの、JX系列内においては“控え選手”に甘んじる恐れから、早々と引退を決意したのかもしれない。

いぜれにせよ、選択肢が狭まることは人生から活力を奪う。ホテルバイキングで、料理が2~3種類しかないのと、2~30種類あるのとでは、どちらが食事を楽しめるか。クローゼットに2~3着しかドレスがないのと、2~30着もあるのとではどちらが“お出かけ気分”になるか。そして、診察をしてもらえる医療機関が一箇所しかないとしたら─。

小林真央さんの死は確かに気の毒なことだが、彼女よりももっと若く、もっと悲惨な境遇で亡くなる人は世の中にたくさんいる。先日、息子の友人が突発性の病気で急死した。27歳、独身だった。外国で新しい仕事にチャレンジすることになり、張り切っていた矢先の出来事だった。私とも親交があった好青年で、とてもショックだった。人の命ははかない。生きているあいだは、できる限り賢明な選択をしてゆきたいと思う。

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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