vol.700『おとな』

日本のGSにおいてセルフ方式が可能になったのが1998年4月。実際には、それ以前の消防法においても、セルフ給油を違法と断定できる条文は明記されていなかったため、その盲点を突いて数年前に香川県・坂出市に日本初のセルフスタンドがオープンしていた。私も当時、当該スタンドを視察に行き、経営者からも話を聞いた。彼は“恐らく日本も早晩、正式にセルフ方式が認可されるだろう。しかし、それは新たな規制の始まりになるだろう”と語っていたが、実際そのとおりになった。20年経っても、国内のセルフGSは1万ヶ所弱。その原因のひとつは、新たな規制をかけてセルフ化へのハードルを上げてしまったことにある。

一方、国内のGSはこの20年のあいだにどんどん減って、いまでは大体3万ヶ所。ピーク時の半分近くになったわけだが、その原因のひつともまたセルフにある。それまで、GS運営に中小零細の特約・販売店の力を必要としていた元売が、セルフ化によって直営化を推進、各地で安値量販を行なうようになったことで、業界はみるみる疲弊していった。そしていま、省エネと少子化でガソリンの消費量は減少、安売りしても量が捌けない状況となっている。石油元売の数も片手で数えられるまでになり、セルフ化以降の20年は、まさにGS業界の衰退期と歩調を一にしている。

最近、日本の成人年齢を18歳に引き下げることが閣議決定されたが、やはり“20歳で大人”というのが一般的。そして、日本のセルフGSも今年“成人”となるわけだが、りっぱな大人に育ったとはとても言い難い。前述のとおり、販売量ばかりを追求し、採算を軽侮してきたことで、図体はそこそこ成長したものの、大人としての“自覚”や“常識”は全然身についていないというアンバランスな姿になっている。まあ、世の中いい年こいて馬鹿なことをやる大人はたんくさんいるんだけれど…。

いまから14年前(2004年)のいまごろから、このコラムの連載を開始した。その時、セルフGSは人間なら小学校に入学したころで、全国に約3千ヶ所の規模になっていた。GS総数は5万ヶ所弱で、全体に占める割合はまだ低かったものの、それまでの常識を覆すケタ外れの販売量を誇るセルフGSが次々と現れ、市場の主導権を握りつつあった。“わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい”という教育方針で遊んでばかりいた「セルフ君」だったが、小学生にもなれば、読解力や計算力、思考力などを学んでゆかねばならない。ところが親である石油元売は相変わらず運動会の駆けっこで一等賞を目指すことしか教えようとしない。弱いものイジメをしていても見て見ぬふり。

やがて、このままでは我が子が自立した大人になれないと気付いた元売は、やれ車検だ、洗車だ、レンタカーだといろいろな“習い事”に通わせはじめる。しかし、それまで走ったり、跳んだり、蹴ったりすることしかやってこなかった「セルフ君」、なかなかうまくいかない。なんとか20歳を迎えたものの、相変わらず自立できず、親からの援助を受けないと生活できないような状態が続いているようだ。親はもういい加減にしてほしいと思っているが、有効な手立てはない。だが、手をこまぬいて、いまの生活を放置しておくと、早晩“成人病”になってしまう恐れがある。

独立系セルフも、長年の価格競争で疲弊している店が多い。事後調整で甘やかされていない分、採算性に敏感と言われているが、依然として安売りの永久運動に陥っている店も少なくない。まあ、それぞれ大人なんだから、自己責任でやったらいいんじゃないの、というのは“大人の対応”。でも、もう限界だ、いい加減にしてくれ、というのが正直な気持ちだ。「思慮分別が備わり成熟したさま」を表わす語が「大人しい」。「穏やか」とか「もの静か」といった意味もあるが、20年が経っても日本のセルフGSは一向に「大人しく」ならず、むしろますます子供じみた振る舞いをしているように思う。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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