vol.703『QBハウス』

10分1000円(税別)のヘアカット・サービスで知られる「QBハウス」が、先月、東証1部に上場した。同社は1996年11月に、東京・神田に第1号店をオープン。洗髪や髭剃りなしでカットのみに特化、カット後の細かい毛はバキュームで吸い取るという、当時としては画期的な方式だった。自販機で予めチケットを買うのでレジはなし。椅子はリクライニング機能がないので割安。店内にはトイレもなく、何より洗髪なしなので水回りの敷設工事が不要でコストも大幅に圧縮。「ローコスト・バーバー」と呼ぶべき新しい業態は、消費者の支持を得て、現在国内で500店舗以上、海外にも100店舗以上を展開するまでに成長した。

私も以前は夫婦で切り盛りしている普通の床屋で散髪していた。理容組合に加盟していないとのことで税込1700円で耳掃除までしてくれていたが、好奇心旺盛なオヤジさんがやたら話しかけてくる。「きょうは休みかね」「はぁ…」、「夕方から雨らしいね」「はぁ…」、「どこかお出かけかね」「・・・・」─。決して悪いひとじゃないし、腕もいいんだけれど、毎回このやり取りが面倒くさい。そのうえ、店内はずっと民放ラジオが喧しく流れていて、これを聞かされるのも結構苦痛であった。そんなわけで、私も数年前からQBハウスの利用客となった。

床屋の選択は、GSの選択とよく似ている。床屋での洗髪や髭剃り、マッサージなどのサービスは、GSにおける窓拭きや灰皿清掃、エンジン点検などと同じで、当然なされるべきものと考えられていた。ところが、QBハウスはその概念を打ち破り、ただ髪を切ることに特化したことで、ローコスト・ロープライスを実現してきた。そして、私が気に入っているのは、マニュアル化されたその接客。無愛想でもなければ、なれなれしくもない。プライベートに立ち入ることは決してない。床屋で世間話をするのが好きな客には物足りないかもしれないが、上場企業となるまでに成長したということは、多くの客の支持を得たことの証と言える。

新たなサービスが生まれると、既得権益を守ろうとする業界団体が役所を動かして規制しようとするのがこの国の常だが、QBハウスもいろいろな“注文”をつけられたそうだ。たとえば、「頭の毛を掃除機みたいなもので吸うだけでは不衛生」だとして、理美容業界は行政を動かし、「温水を供給できる洗髪設備」の設置を条例で義務付けさせた。これに対し、QBハウスは苦肉の策として、従業員休憩室にシャンプー台を設置することで条例をクリアするなどして対抗してきたものの、それらはまったく必要のないコストだ。

セルフスタンドに義務付けている設備や業務もまた然り。そのうえPBセルフにでもなろうものなら、石油連盟から年間18万円もの分析委託料を徴収される。つまり、セルフは「危険」、PBは「粗悪」という前近代的な考えが、いまだこの業界を縛り付けているのだ。床屋がなくなっても市民生活にさほど大きな支障は出ないと思うが、GSがなくなったら山間地では命に関わる。実際、先の北陸地方での豪雪では、病院の暖房用重油が逼迫し、危機的状況に陥ったという。セルフやPBに対する過度の規制がGS業界から活力を奪い、その結果、給油所数がどんどん減ることとなったのは間違いない。

ところで、念願の上場を果たしたQBハウスだが、公開価格を下まわる厳しい船出となったとのことである。その理由の一つに、20年かけて国内外併せて600店舗余りというのは少なすぎるとのことで、投資家からは今後の成長に疑問符が付けられているらしい。そして、その成長を阻んでいる主な要因が、前述の“シャンプー台条例”のような規制によるものだと指摘されている。それに、海外、とりわけ発展途上国では散髪のみの床屋がすでに主流で、いまさらQBスタイルは珍しくも何ともないため、海外展開も苦戦するだろうとの見方もある。国内の理容業界もGS業界も、規制で押さえつけられているあいだに、世界では周回遅れの状態になってしまったようだ。

 

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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