vol.719『サマータイム』

政府・与党が、2020年の東京五輪の酷暑対策として、夏の時間を1~2時間繰り上げる「サマータイム」を導入する検討に入った。サマータイムで仮に時間が2時間早まると、マラソンが朝7時スタートということは、通常の朝5時からスタートということになる。サマータイムのメリットとしては、「明るい時間を有効に使えるので照明の節約になる」「夕暮れ時の視界が悪くなる時間帯の交通事故が減少する」「得した気分が味わえる」などが挙げられているが、一方で「睡眠時間が減少し生産性が低下する」「交通機関のダイヤ変更などによる混乱」「コンピュターの時計機能など各種システムを更新するための移行コストがかかる」などのデメリットもあり、賛否が分かれている。

そもそも、早寝早起きをする(させる)ために、何で時計の針をいじる必要があるのか、私にはさっぱりわからない。時差ボケ状態を生じさせなくても、各企業が始業時間や退社時間を1~2時間早めれば済む話ではないだろうか。サマータイムが導入されたとして、どこまで社会システムが調整されるかいまのところ不明だが、たとえば、2時間繰り上げた場合、朝マックは10時半(8時半)までなのか、12時半までなのか。NHKのお昼のニュースは午後2時から、夜のニュースは午後9時からはじまることになるのか、それとも2時間ずつ早くなるのか。銀行のATMの手数料が無料の時間帯は変更されるのか否か─。

IT業界は、サマータイム導入に戦々恐々としているとか。日付や時刻に関するシステムの改修作業に手間ひまがかかるだけでなく、それが正しく作動するかどうかのテストにも膨大な時間を費やされるという。特にサマータイム初日は1日が24時間よりも短くなるので、日付変更時に誤作動する恐れが拭い切れず、かつての「2000年問題」の時のように、エンジニアたちが泊り込みで対応する可能性があり「やめてほしい」とのこと。当然、そのコストは各企業の負担となってくる。また、サマータイム対応のための修正プログラムに乗っかってマルウェアが配布される危険性もあり、「サイバーテロのお膳立てをすることになりかねない」と警告する識者もいる。

果たしてサマータイム導入にそこまでのリスクがあるのかどうかは疑問だが、コンピュターシステムをいたずらに変更したくないのはセルフスタンドも同様で、できることならサマータイムは遠慮したい。それに、為政者が時計を操作して、時間に対する国民の感覚を錯覚させるということ自体、なんだか違和感がある。そもそも、東京五輪の暑さ対策の一環ということであれば、五輪と関係のない大多数のない人まで巻き込む必要などないんじゃないか。朝型の人は朝、夜型の人は夜、仕事をがんばれば良いのであって、長時間労働を防ぎたいのであればフレックスタイムを導入すれば十分だと思う。

サマータイムを提唱したのはウィリアム・ウィレットという19世紀の英国の建築家。ある夏の日の朝早く、馬に乗って町をまわっていたとき、多くの家のよろい戸が閉まっているのを見たウィレットは、「日光の何たる浪費だ!」と考え、すべての時計の針を春と夏に計80分、つまり4回に分けて20分ずつ進め、秋にそれを戻すという簡単な操作で、人々は夕方の日光をもっと長く利用できると訴え、この時間調整を法案化するよう議会に求めるキャンペーンを始めた。彼が配ったビラの一つにこう書いてあった。『光は、創造主からの極めてすばらしい贈り物である。日光に包まれていると、陽気な気分がみなぎり、心配事もさほど重く感じない。人生に立ち向かう勇気も湧いてくる』─。

省エネだの、経済効果だの、ましてや“働き方改革”なんて関係なし。本来のサマータイムとは、人間が人間らしい営みを送るべく啓発することが目的だったと知り少々納得。ただ、24時間エンドレスタイムでGSを運営している身としては、忸怩たる思いではある…。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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