vol.722『リーマン・ショック10周年』

多くのアメリカ人にとって「9.11」は、人生において最も衝撃的な事件として記憶されていることだろう。ワールド・トレード・センターに2機の旅客機が突っ込み、ツインタワーが崩れ落ちてゆく映像は悪夢としか言いようがない。ところが、いまでは、「9.11」以上に衝撃的だった日として「9.15」を挙げる人が少なくないという。いまからちょうど10年前の9月15日、アメリカの投資銀行第5位のリーマン・ブラザーズが資金ショートを引き起こして経営破綻。世界の金融システムは一瞬にして不安定になり、世界の株式や債券、商品の各市場はそろって大暴落した。

低所得者層向け住宅ローンを証券化して売りまくった挙句、住宅バブルがはじけて大恐慌へ─というのが、いわゆるリーマン・ショックのあらましだが、10年経ったいまも事件の全容は解明されていないとも言われている。例えば、リーマン破綻当時の副会長は「返済に必要な借入額を 35%上回る担保があった」と証言しているが、当時の米国財務省も中央銀行も、リーマンを救済することなく恐慌の勃発を許してしまった。なぜそんなことになってしまったのか、いまだにはっきりしていないのだという。

この10年で世界の景気はリーマン以前の水準まで回復したそうだが、“リーマン・ショックで人生が狂った”と嘆く人たちが世界中にたくさんいる。アメリカ頼みの日本経済も大打撃を受け、どの企業も派遣社員をバッサバッサと切り捨てていった。おかげで日本企業はリーマン以前と比べて利益が1.6倍も出せるようになったが、それが労働者には還元されないまま、格差社会が定着してしまった。米国も、景気拡大は戦後2番目の長さに及んでいるが、中間層、とりわけ40歳以下の若い世代の平均賃金は1割も減少しており、好景気の影で将来に希望の持てない若者たちのうっ積が広がっているという。

“たとえ悪どい手を使ってでも、儲かりさえすればいい”“やったモノ勝ち、ばれなければいい”という強欲な精神はいまも人々の心を支配している。顧客から預かった金を使い込んで豪遊する輩や、製品基準を偽装して販売する企業が跡を絶たない。役所は文書を改ざんするわ、銀行は不正融資をするわで、モラルもへったくれもない。リーマン・ショックがもたらした爪痕はいまだ癒えるどころか、化膿し、社会全体に広がっているように思える。

10年前のGS業界はどんなだったかと思い巡らしてみても、十年一日の如きこの業界、いまよりはガソリンが売れていたという程度で、これといった出来事は無かったような…ああ、そう言えば、4月に1ヶ月間だけガソリンの暫定税率が廃止されて、25円も値下がりしたんだっけ。再び税率が復活する前夜の4月30日は大変だったなぁ、翌日の5月1日は全然客が来なくってもっと大変だったなぁ…。やっぱり、何だかんだ言ってみても、ガソリンは価格なんだな、と痛感させられた“事件”であった。

来年の10月には、いよいよ消費税が10㌫に上がりそうだが、その間に、またリーマン級の災厄が起きないとは限らない。実際、「第二のリーマン・ショックは必ず起きる。しかも次はより大規模なものとなる」と“予言”する人の何と多いことか。最新の経済指標を用いて、リアルに解説しているサイトも少なくない。むろん、それらは皆不確実な推測に過ぎない。とにかく世界経済は危機を脱したんだし、よかったじゃないか、とリーマン10周年を総括するのは簡単だが、人間は強欲な生き物だから、いつかまた必ず同じ過ちを繰り返すに違いない。『富もうと思い定めている人たちは、誘惑とわな、また多くの無分別で害になる欲望に陥り、それは人を滅びと破滅に投げ込みます。 金銭に対する愛はあらゆる有害な事柄の根であるからです』─新約聖書「テモテへの第一の手紙」6章9、10節。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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