COCと独立経営<820>「カーケアのコモディティ脱却業態」 – 関 匤

元売各社は未曽有の好決算です。もっとも、在庫評価益がますます拡大しており、評価益を除くと営業利益は半減します。

評価益除きの売上高営業利益率は、ENEOS1.5%、出光3.5%、コスモ6.0%です。セグメントで見ると、在庫評価益の大部分が石油事業分野によるものです。依然として、“原油市況波乗り経営”から脱却できていないようです。

村上さんのこと、この辺で締めます。彼が構築したATAを、私は石油・運輸行政規制緩和後に登場した数々のカーアフターマーケット業態の中で最高峰に位置づけます。

1つは、対顧客との関係を「対称」にしたことです。スーパーやコンビニに比べて購買頻度がはるかに低いカーアフター商品は、売り手と買い手の情報格差があって「非対称」の関係になりがちです。しかも決して安い商品ではありません。
本当にいま必要なのか、値ごろ感はあるのかないのか、人によって情報の温度差が大きいのがカーアフター商品です。

サブ店時代の村上さんはここに気づいており、それゆえ明朗な米国クイックルブのサービスに感銘を受けたわけです。カウンターで女性スタッフが受け付けて、商品説明をしたうえで作業スタッフに回し、終了後は作業スタッフが明細の打ち出しをプリントして説明します。危急の場合以外は、明細以上に商品を追加販売することはありません。

2つめは、お客さんが利用しやすく、スタッフが働きやすい環境に整備したことです。彼の望む業態実現のためには、既存のSSインフラでは無理でした。作業スペースと動線を確保した物理的に処理能力の高い専門のカーケアセンターとしました。(もちろん立ち上がるまでのスタッフの意識改革と訓練には相当苦労していますが)

ウェイティングスペースと作業スペースの間は大きな窓でスケルトンになっており、お客さんは自分の車の作業を見ることができます。女性客がATA支持のバロメーターと考えて、クレンリネスと待ち時間のアメニティには相当意識を注いでいました。

3つめは、「ガソリン依存からの脱却」です。元売から“理由なきマークはく奪”をされるほど早い段階のセルフ化でした。セルフと表示するだけで売れる時代でしたが、村上さんはPBによる安値業転を武器に量販戦略をとることには無関心でした。
粗利は110数円を確保していました。系列店が安売りしても、客数に明らかな変化が出るまでは対応しませんでした。「ガソリンは主武器ではない。ATAの道具の1つ」という位置づけでした。

ガソリンのための販促は価格表示だけでした。複数の系列店が週末ごとにティッシュ販促を繰り返したときだけ、初めてティッシュでやり返していました。「これすごい集客効果だね」と感心していました。それほどガソリンには無頓着でした。

4つめは、「コモディティ化からの脱却」です。先の詳細な明細プリントアウトはすべての作業に行っていました。オイル交換では「16カ所の無料点検+8カ所の無料補充」です。これが全顧客に行われることが商品となり、固定客が積み上がりました。

整備技術の派生として生まれたのが中古車の商品化です。オークションで落札して右から左ではコモディティです。ATAでは徹底的に加修して部品もタイヤも交換して、独自の商品「まるで新車くん」を販売しました。中古物件をリニューアルする「まるで新築くん」という工務店に触発されたそうです。私はこれを購入して5年落ちの車を気持ちよく10年間乗ることができました。

前回書いたように、彼がやってきたことは元売系列が10年1日やり続けている目標管理とキャンペーン、コモディティ化された商品群に対する、アンチテーゼでありました。SS業界を本籍地として、最高のカーケア業態を確立したのは元売でも大手特約店でもなく元三菱石油サブ店でした。

写真 : 整備技術を派生して中古車を独自商品化した「まるで新車くん」

COC・中央石油販売事業協同組合事務局


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