COCと独立経営<870>トヨトミの世襲 – 関 匤

面白いですね、梶山三郎著「トヨトミの世襲」(小学館)。
明らかにトヨタのモデル小説です。「トヨトミの野望」「逆襲」に続く第3部作です。著者の梶山氏は「覆面作家」というタイトルです。

梶山三郎著「トヨトミの世襲」(小学館)
梶山三郎著「トヨトミの世襲」(小学館)

おそらく日本経済新聞の現職あるいはOBと想像しています。というのも必ず「日商新聞」の記者が登場して重要な役割を演じていることだけでなく、企業とマスコミの関係性が詳細に描かれているからです。
ペンネームの「梶山三郎」ですが、私の世代感覚からすると、「梶山季之」と「城山三郎」の合成と思われます。両者とも経済小説の雄です。梶山季之氏は週刊誌のスクープ記事を連発するフリーライターから作家となり、自動車メーカーの開発競争とスパイ行為を描いた「黒の試走車」や、あずき先物取引の「赤いダイヤ」が映画・ドラマ化されています。

城山三郎氏は、通産次官の栄光と凋落を描いた「官僚たちの夏」、戦前の濱口雄幸宰相の「男子の本懐」など多数の経済・政治・軍事関連著作があります。
城山三郎氏と言えば、石油村の「うまい話あり」があります。旧エッソスタンダード時代のマネプラ経営者の苦悩が描かれています。1986年にNHKでドラマ化されました。東京八王子市松木の旧共石SSを借り切った撮影現場に、私が立ち会ったことがあります。主演の水谷豊さんと2ショットを撮ってもらいました。田中裕子さん、倍賞美津子さんもいました。

年末だからこういう話を長々と書いてもいいでしょう。元に戻せば「梶山三郎」という著者名には、経済小説の先輩に対する書き手としてのリスペクトが込められていると思われます。したがって著者は経済新聞記者の可能性が高いですね。

さて、この本の中でビッグモーター同様の問題が、系列ディーラーによる「不正車検」で発生していることが述べられています。
トヨトミ自動車オーナー社長の鶴の一声でディーラーに「55分車検」という商品を作ったのですが、点検・整備が間に合わず55分に合わせるために「工程の手抜き」が行われていたという内容です。

これはまさにモデル小説です。トヨタ系で実際に起こったことです。2021年7月、ロイターはこう報じています。「トヨタ自動車は、100%子会社のトヨタモビリティ東京が直営する販売店『レクサス高輪』での車検で不正があったと発表した」。過去2年間の車検総台数の3分の1で不正が行われていたというものです。

2021年9月、トヨタ自動車は系列店の実態調査を行ったうえで、「販売店11社12店舗にて不正車検が行われていた」と正式に広報しています。広報によると、
①販売店の人員や設備が、仕事量の増加に追い付かない
②車検制度への認識
③販売店の幹部と現場との風通し・風土
④作業を監査する機能
等に問題があったとしています。また、メーカーとしての問題点として、
①現場の実態や要望を十分に把握できず
②入庫台数や売り上げなどの数値目標を中心とした方針や表彰制度を展開してきた
と自戒の念を述べています。

「自動車命」のメーカーにして、顧客を忘れて台数や売り上げにこだわったということです。カーディーラーは子会社か地域の大手企業であり、オーナー一族と現場社員の意識の格差が問題を生み出したということです。
これってそのまま、元売と特約店、特約店経営者一族と現場社員の関係に置き換えられてしまうのではないでしょうか。元売にとって社員にとってカーケアは「命」ではないので、そのぶん、現場ではトヨタどころでない問題が起こっているかもしれません。

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