COCと独立経営<616> 非対称を破壊するカーシェアリング – 関 匤

私は数年前からCOC会員に関心を喚起していたのが、パーク24のカーシェアリング・タイムズカープラスです。

2、3年前から会員数が毎月1万数千人単位の増勢を続けていたので「100万人のシンボリックな数字が出たら社会現象になる」と、COCの会報でも書いてきました。そして100万人を突破しました。カーシェアリングは自動車の時間貸しです。必要な移動の時間だけ車に乗るというビジネスモデルです。

一般消費者が保有する乗用車は95%駐車しているというデータがあります。これは駐車料金、ガソリン給油、車検整備、洗車やオイル交換などメンテナンス、自動車税、任意保険など自動車維持費用の95%を「空気」に支払っていることになります。維持費を月額にすれば中古乗用でも6~7万円にはなるでしょう。シェアリングにすれば、月1080円の会費で75分乗れて、あとは15分ごとに216円ずつ課金されます。長時間乗りたい場合は6時間2500円のパックもあります。利用の多い人でも月額1万円程度で自動車維持費より圧倒的にお得です。

また、法人契約が会員の4割いるのも大きな特徴です。営業地域まで鉄道移動してカーシェアリングを利用した方が効率的かつタクシーより安上がりということです。これは「働き方改革」の趣旨にも一致するので、法人需要はますます増えるでしょう。

タイムズのビジネスモデルはコストコのように会費制が1つのキモです。車両1台当たり約5万円の会費収入になります。駐車場に止めておくだけで5万円の収入です。使う人は会費以上に利用して収益となり、利用しなければ退蔵益となります。

もう1つの側面は、自動車業界で初のAI、IoTのシステム事業であることです。GPSや車載カメラなどを駆使して会員個々の走行状況、移動状況まで掌握しています。蓄積されたビッグデータは自動車メーカー垂涎の的であり、トヨタが情報提携しました。自動運転など技術開発に応用すると言われます。

なにより「顧客との双方向性」を持っていることです。必ず利用後にメールで意見を聞いています。同時に利用方法の提案も受けています。消費者提案による利用促進企画を投入します。顧客に寄り添うことで、双方向性が化学変化を起こしながらアメーバのように新たな利用方法(裏ワザ)を増殖しています。

タイムズは自動車メーカーでもなければ販売業者、リース業者でもありません。バブル崩壊後に、地上げ途中で放棄された都市の歯抜けのようなスペースに雨後の筍のように展開した駐車場業者です。プロの車屋ではありません。無人駐車場のインフラとノウハウをベースに自動車産業に切り込んで、顧客の支持を得たわけです。

車関連のビジネスは歴史的に、売り手と買い手の関係が“非対称”にありました。売り手の知識量と買い手のそれに差が大きく、売り手主導にありました。無知な主婦に手練手管で売りつける油外販売も、非対称の延長線上にありました。

カーシェアリングはそれを根底から覆しています。消費者はメンテナンスを考える必要がありません。そして、タイムズが思ってもいない利用方法を乗り手が勝手に開発しています。

COCの某会員は十数年前に車販と板金を始めました。その時、“プロ”の板金屋のベテランオヤジや中古車屋から「ガソリンスタンド風情が」とさんざんバカにされたそうです。

ところがIT機器を導入したら人間の感覚より正確に調色します。スマホのアプリで昨日入ったばかりの女の子が車の査定価格を提案できます。お店と顧客の間で中抜きしていたプロ業者を排除して、“ガソリンスタンド風情”が値頃感のある商品を簡単に提供できるようになりました。

この会員は言います。「AI、IoTってトヨタの世界だと思っていたが中小企業に向いている」。成熟時代のキーワードは、本気で消費者に寄り添えるか。そして駐車場が自動車業者になったように、プレーヤーが入れ替わる下克上にあると実感しています。

 COC・中央石油販売事業協同組合事務局


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