vol.770『炎上』

いまから二十数年前の話だが、社員旅行で沖縄に行ったことがある。旅行会社のアレンジしたスケジュールに沿って、名所旧跡を回ったが、当然首里城も訪ねた。入り口の立派な門(守礼門)の前で撮った記念写真が残っているが、琉球王朝の歴史にまったく興味がない私には、記憶に残るようなものは何もなかった。

そんなわけで、先月31日未明に首里城で火事が発生したとの一報を聞いたときは、「確か昔 行ったことがあったよなぁ…」といった感じだったのだが、その後、ニュース映像で、壮麗な宮殿が紅蓮の炎に包まれながら焼け落ちてゆく様を見た時には、これはえらいことになったものだと憮然(驚いてぼんやりとしている様子の意)とした。

戦後、復元されたものであるとはいえ、建物の中には多くの貴重な文化財が収蔵されていたとのことで、2000年には世界遺産に登録され、二千円札の絵柄にもなった。しかし、文化財としての価値以上に、沖縄県民にとっての首里城は“ふるさとのシンボル”のような存在だったということを、今回の事件で改めて思い知らされた。日本各地の沖縄出身の方々が、インタヴューで涙ぐむ様子を見て“ああ、本当にショックだったんだなぁ”と─。早くも再々建に向けた募金活動などが始まっているとのことだが、道のりは遠く、険しいものとなるだろう。

火災の原因は、現時点ではまだ断定されていないが、正殿一階にあった分電盤が焼け焦げた状態で発見されていることから、電気系統によるものとの説が有力のようだ。文化財の火災と聞くと、私は京都・金閣寺の放火事件を思い浮かべたりする。私が生まれるずっと前に起きた事件だが、その特異性は三島由紀夫や水上勉の小説の題材ともなった。電気系統の火事で思い浮かべるのは、1974年のアメリカ映画「タワーリング・インフェルノ」。138階建ての高層ビルが、コストをケチって規格を下回る電材を使用していたため開所式の夜に出火し、阿鼻叫喚の地獄と化した。

今回の首里城炎上の映像も、一瞬、スペクタクル映画の一場面のような錯覚を覚えたが、夜が明けて無残な姿をさらした宮殿の姿は現実そのものであった。京アニ事件このかた、火事が起きるたびに「放火?」、「ガソリン?」と、少々ナーバスになっているのは事実。今回の火事の原因もまだ明確になったわけではないので、もし「金閣寺」の主人公のような輩が、ガソリン撒いて火を付けたなんてことになったら、全国のGS関係者はいたたまれない立場に置かれることに。

それにしても、首里城を復元するのにどれぐらいの費用と時間がかかるのだろう。内閣府によると、焼失前の首里城の復元にかかった総事業費は1986~2018年度の33年間で約240億円に上る。また同程度の時間と費用をかけて再建するのが果たして得策なのか、今後議論が起こることだろう。そうでなくとも、先の台風や水害で関東地方の諸都市が被った経済損失は計り知れない。優先順位が問われる状況だ。

このコラムを書いている最中に、今度は合掌造りの集落で世界遺産の岐阜県白川村で小屋が燃える騒ぎがあった。小屋の中には配電盤があったというから、これまた電気系統の事故なのかもしれない。幸い大事には至らなかったようだが、もともと電気なんかなかった時代に作られた建築物ゆえに、電気設備との“共存”の危うさが浮き彫りになっているように思う。

一方、ようやく寒さが増してきた昨今、灯油の販売が活況を呈しつつある。例年、日本のどこかで起きるGSでのコンタミ事故。気を付けたいものだ。GSの不始末が原因で火災事故が起きてしまったなどということのないよう、日本中のGS従事者が、緊張感を持って作業に当たらねばならない。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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