vol.827『デモクラシー・クライシス』

『トランプ大統領が7日、バイデン次期大統領の勝利をようやく公式に認め、円滑な政権移行に協力すると明言した。米連邦議会議事堂への乱入事件を受けた共和党内での責任論の拡大を警戒。政権高官の辞任も相次ぎ、退任後もにらんだ政治生命の維持へ対応を余儀なくされた』─1月9日付「日本経済新聞」。

さすがの“タフガイ”も、ならず者共を煽ったことで思いもよらぬ災禍を招いたことにビビッてしまったということか。4年後に再び大統領選へのに出馬をもくろんでいるとされるトランプ大統領だが、このままだとテロリストの頭領と目され、退任後即逮捕されてしまうかもしれないと一部メディアは報じている。
『ペロシ下院議長(民主党)は7日、大統領の解任をペンス副大統領に要求した。大統領が職務を果たせない場合の権限移譲などを定めた憲法修正25条に基づくもので、実現しない場合はトランプ氏の弾劾・罷免手続きを検討する意向も示した』─1月8日付「毎日新聞」。

任期があと10日足らずの大統領をあえてクビにしようとするのは、やはり米国大統領が“核ミサイルの発射ボタンを押せる人物”ゆえのことだろう。とにかく、何をやらかすか分からない人物が、かなり追い詰められた状況にあるわけで、最後の瞬間まで気が抜けない。頼むからおとなしくゴルフでもしていてくれよ、というのが世界各国首脳たちの願いだろう。

そのトランプ大統領、1月20日に行われるバイデン新大統領の就任式に出席しない意向を明らかにした。理由はわからない。大統領就任式は平和的な政権移行を象徴する式典であり、退任する大統領の欠席は1869年以来、約150年ぶりとなるのだそうだ。まさに、最後まで「歴史に名を残す存在」であろうとしている。これに対し、「融和」を訴え続けてきたバイデン次期大統領も堪忍袋の緒が切れたのか、「彼は国家の恥だ。来ないのは良いことだ」と突き放した。

それにしても、ここまで根深い分断が生じてしまった超大国を、どうやって立て直せばよいのか。78歳の次期大統領は、就任した途端、非常に難しい問題に取り組まねばならない。今回の選挙でも、トランプ大統領に7千4百万を超える人々が投票した。攻撃的なツイートを連発して国際社会を緊張させ、暴力的な人々を“愛国者”と擁護し、地球温暖化はファクトだと言い放ち、ロシア疑惑や脱税疑惑などにまみれていてもなお、「アイ・ラブ・トランプ!」という人たちが7千4百万人以上もいたという事実を、新政権はどう受け止め、どう対処してゆくのだろうか─。

強固で揺ぎないものと思われていた「アメリカン・デモクラシー」が、まるで鉄と粘土が交じり合ってできた像のように、もろく、不安定なものであることに多くの人々が衝撃を受け、動揺している。しかも、いまはコロナ・パンデミック下の世界。いがみ合いなんかしている場合じゃないんだけれど、米国に限らず、世界のあちらこちらで衝突や紛争が続いている。その要因のひとつは、グローバリゼーションの中で拡大し続ける「格差」の問題だ。トランプ支持者の多くも、繁栄から置いてきぼりにされた労働者階級の人たちだった。劣等感や反感を募らせていた人々に、「あなたたちこそ健全なアメリカ人だ」と訴えたトランプに、多くの人たちが安心と共感を覚えたのだ。

これは決して対岸の火事の話ではない。日本でも経済格差は深刻化しており、そこにコロナ禍が追い討ちをかけている。この一年間で8万人余りが失業しており、いまの状況が続けば「雇用崩壊」が生じると警鐘を鳴らす専門家もいる。世に不当に遇されていると感じる人々の鬱積した不満がいつしかマグマのように溜まり、それに乗じて、どんな過激な思想が台頭するかわからない。そんな不穏な世の中で経営者にできることは、経営を何とか持続させ、雇用を維持してゆくことで、少しでも社会の安定に貢献することではないだろうか。

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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