vol.666『侵略者』

毎週日曜日の午後8時のテレビといえば、いまや「大河」ではなく「イッテQ」。日本テレビ系列で放送されているバラエティー番組『世界の果てまでイッテQ!』は、放送開始から10周年を迎え、毎週20㌫台の視聴率をたたきだす人気番組となった。番組1年目からのレギュラー、イモトアヤコは、「珍獣ハンター」として100ヶ国以上を訪問しているが、以前、番組の中で“これまでに遭遇した最も恐ろしい生物は”と尋ねられ、即答で「アリです」と答えていた。どんな猛獣よりも、アリに出くわしたら決して近づかないことだと─。

南米原産の強力な毒針を持つヒアリが、日本各地で見つかっているとのニュースを見ていて、イモトが言っていたことを思い出した。『ウィキペディア』によれば、ヒアリは「主にアルカロイド系の毒と強力な針を持つが、人間が刺されても死ぬことはまれで、痛み・かゆみ等の軽度の症状や、体質によりアレルギー反応や蕁麻疹等の重い症状が出る場合もある。命の危険があるのは、アレルギー症状の中でも特にアナフィラキシーショックが起きる場合で、死亡することもある。そのため“殺人アリ”と呼ばれることもある」とのことだ。

しかし、ヒアリの最大の脅威は、攻撃力の高さよりも、増殖力の強さだという。日本でよく見かけるアリの多くは、数百から千匹程度が一つの巣を作るのに対し、ヒアリは多いもので百万匹にもなる。女王アリも、日本のアリは一つの巣にせいぜい数十匹なのに対し、ヒアリは数百匹から数千匹にもなる。この圧倒的な数の力で、生息範囲を急速に拡大し、既存動植物の生態系を破壊してしまうことが最も恐ろしいことなのだと、専門家は指摘している。例えば、ヒアリは作物を枯らす害虫であるアブラムシが出す甘い体液を好むため、共存関係を維持するべく、アブラムシを保護する習性がある。その結果、ヒアリと共にアブラムシが激増、農作物に甚大な被害をもたらすことになり、米国では年間4.2億ドル(466億円)にも上るという。また、ヒアリの生息が確認された土地の不動産価格は大きく下落するとのことである。

GS業界では、石油元売に保護されている100㌫販社や地場大手による安売りによって、市況はボロボロ。「コストコ」などの外来種の進出も広がっており、「サービスステーション」という生態系はすでに壊滅状態に陥っている。元売による事後調整が復活しているとのうわさが専らで、もしそうであれば、業界はますます“温暖化”が進み、価格競争は一段と激化することだろう。すでに地方ではGSの過疎化のような問題を引き起こしているものの、行政も業界も、このまま生態環境が変ってゆくのを良しとしているようだ。ヒアリとは異なり、それら価格破壊者たちが増殖することは、むしろGS業界を強靭なものにするとみているのだろうか。

GS経営者の大半は、いわゆる在来種、つまり創業地において長年事業を営んできた人たちだが、このコラムを読んでいる人の中には、侵略者の立場の人もいるかもしれない。侵略者と言うと何だか悪者のように聞こえるが、どれだけ同業者から憎まれようとも、消費者の支持を得ている以上、何の心咎めも感じる必要はない。ただ、古今東西、侵略者は必ず新たな侵略者に攻撃されることになる。いまは天敵がいないように思えても、新しい業種や業態がその領土を脅かすことになるだろう。永久に存続する業界なんてあり得ないのだ。

ヒアリの天敵であるオオアリクイは、鋭く長い爪でアリ塚に穴を開け、細長い舌をそこから挿入して、アリを舐め取ってゆく。一日に数万匹のアリを食べると言われるアリクイだが、一つのアリ塚を徹底的に破壊して食べ尽くすのではなく、自分の縄張りにあるアリ塚を巡回して、各々から一定量を食べて行くのだそうだ。そうすることで、自分と子孫のための生活環境を維持しているのだ。自然界ではこうした捕食者と被捕食者との間に契約関係が存在する。貪欲さをむき出し、地域の客を根こそぎ食べつくそうとして安売りの永久運動に追い込まれている量販GSと比べて、アリクイの方が遥かに賢いなと思うのは私だけだろうか。

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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