vol.669『時間との闘い』

『金融庁の森信親長官が毎日新聞のインタビューに応じ、経営環境が悪化している地方銀行について、「このまま人口減少が進むと(金融サービスが)供給過多になり、放っておいても県内の3行が2行に、2行が1行に減る」と指摘し、経営体力のあるうちに持続可能な経営モデルへの転換を急ぐよう求めた』─8月6日付「毎日新聞」。

森長官はさらに、地銀が、ただ単に担保や保証のある企業に貸すだけで利益を確保することは難しくなっており、いまこそリスクを恐れず、地方産業のインキュベーターとしての役割を積極的に担うことで、新たな資金需要を掘り起こすべきだと訴えている。事実、地銀の中には新規事業開拓を全面支援し、経営指導も行なうなど新たなサービスを立ち上げる動きもあるようだが、イノベーションを起こすまでには至らず、相変わらず、貸し出し利ざやと国債中心の運用に頼る経営が続いている。

“これだけ金融緩和をしているのに、融資を必要としている起業家たちにカネが回っていないのはどういうことだ”ということになり、日銀は昨年2月にマイナス金利を導入、銀行が日銀に資金を預ければ、逆にコストがかかるようにした。それでもお金は市場に回らない。勇気がないのか、知恵がないのか。結局、地銀各社が取る生き残り策は“合従連衡”。しかし、資産規模を増やすだけで、身を切る改革を怠り、より良いサービスが提供できなければ早晩潰れるというのが大方の予想だ。メガバンクでさえ、このままでは三つも残らないだろうと言われている。
『思うように進まない地銀改革に、ある金融庁幹部はいら立ちを隠せない様子で語る。「競争の維持にこだわっているうちに、同じ県内の地銀は共倒れする。これは時間との闘いだ」』─同記事、下線は筆者。

記事を読んでいて、私たちの業界と状況が酷似していることに苦笑を禁じえなかった。人口減少に加え、省エネ技術の向上が、石油業界の体力を急速に奪っている。石油元売はすでに合従連衡の最終段階に入ったものの、いまだ「競争の維持にこだわって」おり、系列販社による安売りが続いている。独立系GSの多くも新たなサービスを開発するに至らず、価格競争の泥沼から抜け出せずにいる。

利益減に苦しむ銀行が最近力を入れているのが、無担保で使途を問わない個人向けカードローン。融資残高は約5兆6千億円で10年前から約6割も膨らんでいるのだという。消費者金融と違って銀行は無制限。金利は最大15㌫。日弁連は銀行の行き過ぎた融資が「平成版・サラ金地獄」を生じさせつつあると警鐘を鳴らしている。

前回のコラムでも取り上げたが、GS業界も、このところ過剰な油外販売や、ずさんな車検・整備で、ガソリンの低マージンを補おうとする店が増えているようだ。“こんな状態だといつ車が止まってもおかしくありませんよ”なんて稚拙な脅しに引っ掛かる方も悪いのかもしれないが“クレジット会員になればガソリン○円引き”と勧誘しておいて、キャッシュレスの錯覚に付け込んで不必要な、あるいは割高な油外商品を売りつける行為は、商道徳がゆがんでいると言わざるを得ない。

GSは“ジリ貧業種”の代表格と目されているのだろうか、昨今、金融機関から相手にもしてもらえないという。まあ、いつまで経っても安売り競争するだけで、進化しようとしないのだから仕方がないか。トヨタとマツダが提携し、電気自動車を推進させることになった。自動車世界の方向は燃料電池ではなく電気自動車に決まった感がする。この先、GS業界がそのポテンシャルを生かして新しい時代を生き抜くためには、いまのうちに体力を付けておかなければならない。すでに待ったなしの「時間との闘い」が始まっているのだが…。

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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