vol.670『ティッシュボックス プレゼント』

愛知県T市に 、新たに大型セルフスタンドがオープンした。オープンキャンペーンは毎度おなじみの“ティッシュボックス5箱プレゼント”。景表法の関係なのか 、20㍑以上給油に限ると断ってあったものの 、いまどき20㍑以上入る車なんてそうないので 、実際には 、数量問わず気前よく景品を渡していたそうだ。知人がキャンペーン期間中の3日間通って計15箱もらったうえに 、最終日に会員カードを作ると20箱もらえると勧められ入会金無料でゲット。35箱ものティッシュをタダでもらえるなんてと“感動”していた。

この地域には 、安売りPBセルフが2店舗を展開していたためたちまち市況が陥没。いまや愛知県屈指の安売り地帯と化している。せっかく景品まで付けるのだから 、そんなに安く売らなくてもと思うのだが 、そこは依然として数量至上主義が幅を利かせる我が業界 、スタートダッシュが肝心とばかりに116円(税込)できょう現在まで推移している。割引クーポンなどを使うと112円らしい。迎え撃つかたちとなったPBセルフも114円。この状況は当分続くとみられる。T市民は大喜びだが 、地元GSは大変だ。

それにしても 、なぜ景品にティッシュかといえば 、生活必需品であることに加え 、来店客のほとんどが自動車で来店するので 、かさばっても迷惑がられないからだそうだ。醤油や洗剤のように 、銘柄によってインパクトがぶれることも少ないらしい。ただし 、ただのティッシュではなく「クリネックス」だとか「スコッティ」などの銘柄を宣伝チラシで謳うと効果は倍増するとか。“いろいろ試してみたけれどやっぱりティッシュがイチバン”とのことで 、オープンしたあとも「毎週土・日はティッシュプレゼント」と銘打ってがんばっているGSは結構ある。

お客からすれば 、こんなに気前よく景品をくれるなんて 、ガソリンってよっぽど儲かるんだなと思えるに違いない。枚数や品質にもよるが 、ティッシュボック5箱は 、スーパーやドラッグストアで目玉商品として190~230円ぐらいで売られている。これより多少安く仕入れることができても20㍑換算で10円近い負担となる。マージンが20円もあれば 、どうってことないのだが 、現状ではポケットティッシュ1個ぐらいで勘弁してくださいと言いたいぐらいだ。

元売は 、時にこのティッシュ代を販促支援費として負担することで 、系列店の増販を促してきた。仮にキャンペーン中 、5箱セットのティッシュを1500セット配ったとして 、1セット150円で22万5千円。225㌔㍑分の販売量に対して1円のインセンティブを支給したかたちになる。また 、そのうちの25㌔㍑が増販分だとして 、それに対するインセンティブだと解釈するなら 、1㍑あたり9円も補填したことになる。あくまで仮定の話だが。

現実には 、そんなにうまくゆくことは稀だろう。最近は 、キャンペーンをやっても減販を食い止められれば御の字だという声も聞く。お客は景品もくれて 、ガソリンも安くしてほしいと望んでいる。その期待に応え続けるだけの体力があるかどうか。繰り返しになるが 、景品を付けて売る時には 、それが利益として還元される仕組みでなされなければ 、GSは骨折り損を被るだけで 、喜ぶのは石油元売と製紙会社だ。お客からは 、相変わらず 、「GSって儲かってるんだな~」と誤解されたままだ。

ところで 、ティッシュペーパーの原材料はパルプと呼ばれる 、木をほぐして出る繊維を集めたものだ。パルプは木材チップを大きな蒸解釜で煮込んでうえ 、二酸化塩素や酵素などを使って抽出される。日本製のティッシュは 、品質の問題などから100㌫木材パルプを使って作られており 、草や藁 、古紙などのパルプは混ざっていない。直径14㌢ 、高さ8㍍mの木一本から作られるティシュペーパーは約200個だそうだ。無論 、製造の過程で大量の石油が消費されている。そのようにして作られたティッシュペーパーを 、わずかなガソリンを売るために何百個もタダで配る。みなさん 、どう思いますか?

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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