vol.672『9月1日問題』

“9月1日問題”というのをご存知だろうか。多くの地域で夏休みが終わり、新学期が始まるこの日に、自ら命を絶つ子どもたちが突出して多いのだという。データが明らかになったのは2015年のことで、文部科学省は、原因や動機には学業不振や家庭問題、学校や友人関係などが複合的に重なって子どもたちを絶望的な状況へと追い込んでいると分析している。

夏休みが残り少なくなってくると悲しい気分になる子どもは昔もいまもたくさんいると思うが、学校へ行く恐怖に耐えかねて死を選ぶという現象は、近年特有のものだと思う。理由は幾つかあるのだろうが、やはり“いじめ”が最も多くかつ深刻なものと見られている。専門家によると、男子は暴力系、女子はコミュニケーション系のいじめが主で、大人からそれは見えにくく、いじめられている子も、苦しさを見せようとしない。そのため、早期発見ができず悲劇に見舞われるとのことだ。いじめ問題に取り組んでいるNPO法人の代表者は、「学校に行かない選択肢もあります。“うちの子に限って”はありません。突然、子どもが死んでしまうかもしれない危機感をもってください。子どもの命が最優先です」と警告している。

GS業界に限ったことではないが、長時間労働で疲れ切った体で帰宅し、子どもと過ごす余裕のない生活が続くと、子どもの小さな異変を見逃してしまう恐れがある。お客様の気持ちを察するのは得意でも、我が子の表情をうかがうのは苦手という人、結構いるんじゃないだろうか。親であるわたしたちは、こう自問すべきかもしれない。「お客様に対しては、笑顔で優しく話しかけることができるのに、子どもに同じようにできないとしたら、それは何故なんだろう。お客よりも我が子の方が比べものにならないぐらい大切なはずなのに」─。

では、子どもが“学校へ行きたくない”と打ち明け始めたら、どう対応すべきか。途中で打ち切ったり、説教したりするのは禁物。また、「自分は頑張ってやり抜いた」式の成功体験を持ち出すのも効果はない、と専門家は指摘している。子どもの話は繰り返しだったり長くなったりするが、1時間でも2時間でも聞くことに徹するのが肝心なのだという。そのうえで、一緒に解決策を考えてゆくことで、子どもは“避難所”を見出し、安心してゆく─。

これまた、経営者や管理職にとっては耳の痛い話かも。部下に対しては、辛抱強く耳を傾けることができるのに、子どもには、ついつい説教したり、説得しようとしたりする。我が子への愛情ゆえにそうなるのかもしれないが、自制心をはたらかせ、子どもの語ることを、一人の人間の意見として聞く姿勢が必要なのだ。このあいだ観た映画の中で、思春期の子どもが言う事を聞かないと嘆く母親に、友人がこう諭す。『子どもは親を安心させるために生まれたんじゃないよ』。確かにそうだなといまさらながら思った次第。ホント、子育てって難かしい…。

子どものいじめを見えにくくしている要因には、学校の隠蔽体質もあるという。「いじめ」が発生した場合は、学校は教育委員会に報告しなければならないが、そうなると、学校側の監督・指導責任が問われることになる。学校の評判を落としたくないという心理が働き、「いじめ」を“ふざけ合っていた”などと見なすようになり、早期発見・予防を妨げてしまう。さらに、「いじめ」報告を怠っても、校長や教員に懲罰規定がないということも問題だと指摘されている。

元売販社の安売りは、本来、クラスの平和と秩序を司るはずの教師が、いじめを見過ごすどころか、煽っているようなものだ。“あれは「いじめ」ではなく自由競争”と、見え透いた言い訳をしても、いじめられている子どもたち(特約店)は納得しないだろう。でもまあ、そんなことは、尊い子どもの命の問題に比べれば、どうでもいい話。いずれ元売販社は破滅するだろうから放っておけ。いまはただ、9月1日に痛ましい事件が起きないよう願うばかりだ。

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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