vol.681『次の時代への備え』

日本のメガバンクの合理化計画が矢継ぎ早に報じられた。まず,みずほフィナンシャルグループが今後10年程度で国内外1万9千人の人員削減を検討しているという。グループ全体の従業員数の約3分の1に相当する人数で,超低金利で収益が伸び悩むなか,デジタル化を進めて人件費を削減し収益力の強化を図るとのこと。

 三菱東京UFJ銀行は約480店のうち1~2割の統廃合を検討しており,来年度から3年間で進める。また,今後15年で多くの店舗を,窓口業務を完全にデジタル化した無人店にするとのことで,これらの施策により,国内従業員の3割にあたる9,500人の業務を削減する。また,三菱UFJ信託銀行が,来年4月に住宅ローンの新規融資から撤退することも明らかとなった。来年1月にも事前審査の受け付けを停止するそうだ。

 量的緩和策の実施によって低金利化が進み,銀行は融資業務で利ざやを稼ぐことが難しくなっており,銀行の収益力は年々低下する一方で,従来の利益を維持するためには,大幅なコスト削減,すなわち人減らしをするしか方法がなくなりつつあるようだ。それを後押しするもうひとつの要素が「フィンテック」。「ファイナンス」と「テクノロジー」を併せた造語で,身近なものでは,スマートフォンなどで,簡単に送金や決済などができるサービスなどのことで,今後,融資や株式売買なども店舗に出向かなくても行なえるようになるという金融IT革命。これに人口知能やビッグデータを活用することで,融資における審査や資産運用のアドバイスも,人間ではなくコンピューターがより早く,より正確に行なうようになるだろうと目されている。

 確かに,最近明らかになった商工中金のでたらめな融資などを見ていると,お金は人間が扱うよりもロボットが扱ったほうが良いのかも,とも思ってしまう。確かに,我々一般庶民は,いまでもほとんどの用事はATMかネットバンキングで済ませているので,銀行員の顔など見ることはない。彼らがお相手をするのは富裕層。いま開催中の日本シリーズの冠スポンサーは「SMBC」。テレビ中継の合間のコマーシャルで,資産運用の相談に来た品の良い老紳士に,堺“半沢”雅人扮する銀行員が,とっても愛想よく「何でもご相談ください」と応対する。これからの銀行員は,ITが不得手な金持ちのお年寄りの相手をする介護ヘルパーのような役回りをしなければならないかも。

 GS業界は,いまのところネットでガソリンは購入できないので店舗が必要だが,米国ではスマホで予約しておくと,仕事や買い物をしているあいだにガソリンを満タンにしてくれる「宅配サービス」が普及しつつある。日本でも認可されるようなことになれば,店舗数の減少にさらなる拍車が掛かる。

 EVの時代はまだまだ先のことと決め込んでいる人たちは少なくないが,「フィンテック」同様,技術革新によって急速に普及する可能性は十分ある。その時には,「サービスステーション」なる業態は絶滅の危機にさらされるかもしれない。まだ,世の中の大半のクルマがガソリンで走っているあいだに,そして,セルフ化によってコスト削減が可能ないまこそ,きっちり利益を取っておかないと,来るべき時代に対応できなくなる。安売り競争やってる場合じゃない。

 銀行同様,GS業界も,富裕層に特化した店舗を作ってみたらどうかという意見もある。これまでも,美術館のような外観を呈したGSが造られたり,ホテルのような接客を行なう店が登場したこともあったが,金持ちだからといって高いガソリンを所望するわけではなく,ほとんど失敗に終わった。高級車に乗る富裕層は,カーディラーがしっかりと抱え込んでしまっており,GSは油外商品の分野でも,“格安”とか“半額”などとうたって対抗するしか手立てがない。新たなサービスを開発する余地はあると思うのだが,GS業界は通常の業務もままならぬほどの人手不足。人を集め,育て,展開させてゆくにはやはりお金が必要なのだが。やはり,安売り競争やってる場合じゃない。

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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