vol.683 『不寛容な社会』

スーパーマーケットや百貨店、コンビニなど流通業界の労働組合で作るUAゼンセンが、ことし6月から7月にかけて全国5万人余りの組合員に対して行なった実態調査によれば、仕事中に客から悪質なクレームなどの迷惑行為を受けたことがあると回答した人は3万6千人と全体の70㌫に上った。回答した人のうち、「暴言」が49㌫で2万4100人と最も多く、以下、「同じ内容を繰り返す」が29㌫、「説教など権威的態度」が27㌫など。「セクハラを受けた」という人もおよそ10㌫いた。また、これらの行為による心身への影響について尋ねたところ、回答した人のうち90㌫近い3万3400人が「ストレスを感じた」と回答、「精神疾患になった」と答えた人も359人いた。

迷惑行為の具体的事例も数多く寄せられている。例えば『クレジットカードを受け取る際に片手で受け取ったところ「無礼だ」と怒られ、さらに「そんな無礼なことをする店員だからカードの個人情報を抜き取ったのではないか」とおよそ2時間にわたって大声で抗議を受けた』とか『客の勘違いで購入した商品を間違えたのに「店の説明不足だ」と自宅に呼び出され、返金を要求された。深夜1時までおよそ10時間にわたって拘束された』など、かなりたちの悪いものもあったとのことだ。

ある専門家は、「昔だったら見過ごされたささいなことに消費者がすぐ苦情を言うようになるなど不寛容な社会が背景にあるのではないか。インターネットで苦情があっという間に拡散されるため、企業側が『不快感を与えないように』と過剰なサービスに陥っている。それに慣れた消費者は求めるサービスの基準が上がり、それがより悪質なクレームを言いやすくしている」と分析したうえで、「“おもてなし”に象徴されるように、日本は高いサービスを提供することが美徳だったが、流通やサービス業の人手不足が指摘されるいま、過剰ともいえるサービスの在り方を再考する時期に来ているのではないか」と指摘している。(11月8日配信「NHKニュースウェブ」より、下線は筆者)

お客様は「神様」ではない。神様は憐れみ深く、寛大で、決して間違ったことはなさらない。むしろ、お客様の多くは「王様」なのだ。無論、良い王様もいるだろうが、大抵は、独善的で、優越感を抱いており、猜疑心が強い。その残虐性ゆえに「暴君」と恐れられた王様は枚挙にいとまがない。前述のような客は、「神様」どころか「王様」も飛び越えて、「悪魔」と呼びたくなるような存在だ。企業側は、悪質クレーマーの対応を現場任せにするのではなく、然るべき部署を設け、理不尽な客には毅然とした態度で臨み、場合によっては威力業務妨害などの罪で訴えるぐらいのことをして、従業員を守ってあげなければ、今後、被害者はますます増えてゆくことだろう。

GS業界でも、わがままな客に悩まされることが多々あると思うが、こと給油に限れば、セルフ方式の店舗ではほとんどトラブルは無いはずである。何と言っても、接客する従業員がいないのだから、クレーマーも文句の付けようがない。「セルフスタンド日進東」でも、開業当初こそ、給油しろ、窓を拭け、ゴミ捨てさせろ等々、文句を言ってくる客が一日に数名いたが、いまではまったくいない。“他所のスタンドに行くぞ”と脅されたことも何度かあったが“結構ですよ”とにこやかに受け答え、近所のフルサービスのGSを案内までしたものだ。しかし、何ヶ所かあったそれらの店舗も、いまでは全滅してしまった。

相変わらず“いまこそ接客業の原点に立ち返って、お客様とのコミュニケーションを図り、オンリーワンの店づくりを”と主張する業界人もいらっしゃるが、私は真っ平御免です。今後、傲慢な人、粗暴な人、自制心のない人、片意地な人などがますます増えることが分かりきっているこの世の中で、たかが給油のために、なぜ危険を冒してまで接客に挑むのか。むしろ、接客の現場で多くの人々が傷つき、涙を流していることを考えると、GS業界だけでなく、社会全体にもっとセルフ化を進めてゆくべきではないだろうか。

  セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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