vol.696『三百年』

「東京商工リサーチ」によると、大阪・堺市でガソリンスタンドなどを経営する小走石油という会社が、今月7日、事業を停止し、破産手続きを開始した。負債総額は約12億円。GS経営のほかに、1997年3月には車買取専門店「ガリバー」を、1999年12月には中古クラブ専門店「ゴルフパートナー」をオープンさせ、2001年12月期の売上高は約27億5000万円を計上していたという。しかし、近年のガソリン需要の低迷により売上が減少。また「ガリバー」、「ゴルフパートナー」いずれも業績が振るわず、資金繰りが悪化して倒産に至ったと報じられている。

この会社、なんと元禄年間(1688年~1704年)に「具足屋」の屋号で廻船問屋として事業を展開し、植物油の製造販売も手掛けていた、まさに老舗企業。三百年を越える由緒ある会社も、時代の荒波に呑まれ、多角化にも失敗して、遂にその歴史にピリオドを打つ結果となった。私は、今回のニュースをネットで見るまで、小走石油の存在をまったく知らなかったのだが、「ルブダイレクト」という潤滑油類のネット通販事業も行なっていたようだ。タービン油や圧延油、コンプレッサーオイル、工業用グリス、ホワイトガソリン等々、様々なエネオス製品を全国のJXTGの倉庫から直送販売するというもので、なかなかおもしろいことをやっていたのだなと思った次第。

全国のGSが、生き残りをかけ、試行錯誤しながらも、多角化に取り組んでいる。しかし、先日お会いしたGS経営者は、「和田さん、やっぱりガソリンで儲けなくちゃやっていけませんよ」とおっしゃっていた。中古車販売や自動車整備もやってはいるものの、新たな収益の柱となるほどのものではない。折りしも昨年12月頃から市況が安定し、まあまあのマージンが取れるようになってきたうえ、寒波の到来で灯油もよく売れる。改めて当たり前のことを実感したと─。

多角化を進めるにしても、それを育てるための“原資”が必要。不毛の価格競争を続けていると、来たるべきEV時代に向けて脱皮する体力がなくなってしまう。すでに、石油元売は競争相手と合従連衡し、事後調整をやめた途端、巨額の利益をたたき出している。また、外食産業大手の「すかいらーく」は、営業時間の短縮を進める一方で、ランチやディナーの時間帯に配置する従業員を増やし接客を強化したうえ、健康志向の高まりに対応した価格が高めのメニューを充実させたことで、1人当たりの購入金額が伸び、売上げはほぼ横ばいにもかかわらず、二桁増益を達成している。

『変わらずに生き残るためには、変わらなければならない』とは、イタリア映画の巨匠・ルキノ・ヴィスコンティ監督の映画「山猫」(1963)で、アラン・ドロン演ずる改革派の貴族が、古き伝統を守ろうとする老貴族(バート・ランカスター)に言い放つセリフ。この映画がお気に入りという小沢一郎氏が、かつて民主党の代表選挙でこのセリフを引用していたが、逆説的なこの言葉は名言といえよう。GS業界は相変わらず逆風に見舞われているが、何とか生き残れた暁には、残存者利益を享受することができるかもしれない。そのために、いま「変わらなければならない」のだと思う。

今回、倒産してしまった小走石油のスタンドは、キャノピーの上に高さ10㍍はあろうかという灯台を模したランドマークがそびえ立っている。灯台は堺市のシンボルらしいのだが、江戸時代、交易で栄えた堺の街の灯台に供する燃料も、この会社は扱っていたのだろうか。この三百年のあいだに、日本の燃料油脂業界は食用の植物油、ランプ用の鯨油、暖房用の灯油、そしてモータリゼーションを支えるガソリンへと、生き残るために手を変え、品を変えてきた。そして、私たちの世代は、いままた新たなエネルギーの変化に対峙しようとしている。生き残るためにいま何をすべきか。何をすべきでないか。三百年先のことなんか分かりっこないが、せめて三年先ぐらいのことは考えて商売しなくちゃならんだろう。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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