vol.767『災害が来ると思い知らされる』

超大型の台風19号が12日から13日にかけ関東地域を襲い、東京都の多摩川をはじめ、24ヶ所で堤防が決壊、河川の142ヶ所で浸水被害があり、民家数十万世帯が浸水するなど被害が相次いだ。犠牲者は13日夜までに確認されただけで39人、行方不明も16人を数えたが、1958年に伊豆半島を襲った狩野川台風による死者1269人を大きく下回った。

昨年7月の西日本豪雨でも100人を超える犠牲者が出たことから、日本政府は、交通機関の計画運休の実施や、特別警報が発表された地域の住民に「救助を待たず、自ら命を守る行動を取ってほしい」と終日呼び掛けるなど、これまで以上に積極的に避難指示・勧告を行なったことで、人命被害を比較的少数に抑えることができたと海外メディアは報じている。

しかし、浸水被害に遭い、水浸し・泥まみれになった家や店の再建はこれからだ。今回は、被害地域が広範囲なため、自衛隊やボランティアによる救援活動も分散せざるを得ず、復旧に時間が掛かると見られている。生活の基盤が壊滅状態となり途方に暮れる人々の姿は、幾度見ても痛ましい。台風前日の駆け込み給油で稀に見る売上げ増を記録して気をよくしたのも束の間、翌日は開店休業状態で前日の売上げ分がチャラになってがっかり─なんてことは、被災した人たちが直面している困窮に比べれば屁でもないというか、不謹慎というべきか。

それにしても、台風前日にあれほど客が来るとは思わなかった。何でも、テレビで「いまのうちに出来ることをやっておきましょう」としきりに訴えていて、その中で「三つのモノを満タンにしておく」ことが勧められていたとのこと。それは、風呂水、通信機器の充電、そして自動車燃料。災害時に備えガソリンを満タンにしておくことは、以前から業界団体が啓蒙していたことだが、今回は、先月台風15号によってライフラインが長時間に渡って途絶した千葉県南部の惨状の記憶が生々しいうえ、増税前に満タンにしたタンクも軽くなってきたこともあって、「満タンにしておかなくちゃ」となったのであろう。

思いがけない“特需”となったGS業界だが、当日、販売価格を4円も下げて133円(税込)とした大型セルフ店があった。「台風に備えていろいろな物を購入している地域の皆さんの生活支援の一助となれば」との思いから値下げしたのなら、りっぱなことだと思う。よもや増税後の減販に焦ってたまたま値下げしたなどとは思いたくない。「何もこんな時に値下げしなくてもいいのに…」などと苦々しい思いを抱いてしまった自分の度量の小ささを恥じた次第である。愛知県日進市は、今回の台風による物的・人的被害がほとんどなかったが、かくしてガソリン市況は台風の通過と共に崩壊してしまったというわけ。

今回の台風上陸に際してGS業界が得た経験は貴重なものだと思う。やはり、液体燃料の利便性、即応性は災害時に大きく貢献するということ。それを供給できる唯一の施設であるGSは、地域の重要なインフラ施設であるとの責任を自覚すること。それゆえに、これ以上減少させるようなことがあってはならないということ。だからこそ利己心に支配されて価格競争を行ない業界を疲弊させてはならないということ。

暴言との非難を恐れず、あえて言わせてもらえれば、時たま大型災害に見舞われでもしないと、この業界はいま述べたような当たり前のことすら忘れてしまう。EVだ、キャッシュレスだと近未来のことばかり心配して、あす到来するかもしれない患難への備えが疎かになってしまっていないだろうか。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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