先日、タンクローリーの運転手さんから聞いた話。中部地方のあるホームセンターは灯油販売も行なっている。セルフではなくポンパー要員を常駐させての営業で、1㍑あたりのマージンを2円程度に設定し、一日平均20㌔㍑ぐらい売れていた。しかし、近年の人手不足や販売量の頭打ちなどで量販戦略を転換し、マージンを20円にしたところ、販売量も2㌔㍑に激減した。2円掛ける20㌔と20円掛ける2㌔では、どちらも利益は4万円で同じだが、2㌔になった現在の方がもうかるらしい。営業時間を短縮し、人件費も軽減されたため、運営コストが大幅に下がったからだそうだ。
一日の販売量が10分の1になってもいいから、マージンをしっかりいただき、人手不足に対応する─。なかなか勇気ある決断だと思う。もっとも、ホームセンターにおける灯油販売はあくまで副業だから、「だめならやめちゃえ」的な志向で方向転換を図ったのかもしれない。GSが同じ発想でやれるかといえば、容易なことではないと思う。だが、この事例は、ガソリン需要が減り続けている現状において一考に価する。どうせ売れないのなら、マージンをいまの倍か三倍ぐらい乗っけて、周辺の安売り店より15円ぐらい高値で売ってやろうか、という挑戦も“あり”ではないかな、と─。
もうひとつの挑戦は、営業時間の短縮だ。このところ、「セブン-イレブン」の24時間営業をめぐる論議がかまびすしい。深刻な人手不足で、フランチャイズ店のオーナーたちから“過労死寸前だ”との訴えがなされたのに対し、契約違反として高額の違約金を求めたところ、「血も涙もない」と非難されるに及んで、「セブン-イレブン」は営業時間の短縮を検討することになった。朝日新聞社が実施した全国世論調査によれば、コンビニの24時間営業は必要だと思うかとの問いに対し、「必要ではない」が62㌫で、「必要」の29㌫を大きく上回った。ただし、若年層で「必要」が多数だったのに対し、40代以上になると「必要ではない」が多くを占めたし、地域によっても結果は異なるだろう。だが“少々不便でも仕方ない”という考え方が、消費者に広がりつつあるのは確かだ。
かつて、安売りと長時間営業は企業努力の成果とされ、消費者から圧倒的な支持を受けてきた。もちろん、少しでも安く買えることや、いつでも手に入ることは、いつの時代もありがたいサービスだが、それを追求するあまり、働き手たちの心身が病んだり、いつまでも貧困状態から抜け出せなかったりするようだと、間違いなく社会は不安定となる。日本に限らず、世界各地で起きている事件の多くは貧富の格差によるものだという。例えば、貧困支援の世界的な組織「オックスファム」の最近のレポートによると、世界で最も裕福な8人の資産は、所得が低い36億人(世界人口の半分)の総資産に相当する。「我々の破綻した経済では、裕福な人たちはどんどん裕福になり、貧しい人たちはさらに貧しくなっている。その大多数は女性である」─。
こんな世の中でいいはずはない。世界全体のことはともかくとして、少なくとも自分が経営している会社だけでも何とかしたい、給料もはずんでやりたいし、有給休暇も取らせてやりたい。雇用条件が良くなれば人も集まる─。だが、そんな理想は市場原理の中では通用しない。時々、GS業界でも、長時間労働でうつになったり、命を落とす人のことが報じられる。1㍑数円、一日数万円の粗利のために、一度しかない人生、一つしかない命を犠牲にする必要なんてない。たとえ何千㌔、何万㌔のガソリンを売ったとしても、自分の寿命を1時間伸ばすことさえできないではないか。冒頭で紹介したホームセンターの灯油の話や、「セブン-イレブン」をめぐる報道などは、私を含め“売り負ける”ことへの恐怖に四六時中脅えながら働いている人々に、警鐘のような、あるいは福音となっているような気もする。あとは現状を打破しようとする勇気があるかどうかだ。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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