『出入りするガソリンスタンド燕の巣』(俳句雑誌「波」より)─。この時期、私の店にもツバメが飛来し、巣作り・子育てに励んでいる。とはいえ、糞などが落ちてお客様に迷惑をかけてはいけないので、ツバメが構内を飛び交いはじめたら、よく観察し、巣を作りかけた時点で撤去し、別の“安全な”場所に作るよう誘導している。完成してしまってからでは遅い。たとえ汚損目的であっても、巣の中の卵や雛を傷つけてしまうと鳥獣保護法違反に問われる可能性があるからだ。
ツバメは天敵のヘビやカラスが近づかないよう、あえて人の出入りの多い家の軒先などに営巣する習性があるといわれており、昔から、商家では商売繁盛の印とされ、巣立ったあとも巣を大切に残しておくことも多いそうだが、これは迷信であると断言できる。なぜなら、うちにも毎年ツバメが巣を作りに来るけれど、一向に繁盛しなからだ。(苦笑)
いま日本にいるツバメは、日本で生まれたツバメらしい。つまり、里帰りしているというわけ。秋ごろまで滞在したあと、越冬のためフィリピンやマレー半島、オーストラリアなどに渡って行くそうだ。一部、日本国内で越冬するツバメもおり、夏にはシベリヤへ渡るらしいのだが、なぜそんな真逆の行動を取るのか詳しいことはわかっていないそうだ。ちなみに“ひゅるりぃ~、ひゅるりぃらら”とは鳴きません。(森昌子「越冬つばめ」より)
それにしても、3千~4千㌔もの距離をあの小さな鳥が飛んでくるとは驚きだ。しかも、ツバメは水鳥ではないから、途中で海上で休息することもなく、一日300㌔のペースでノンストップ飛行を続けるという。一体どこにそんなパワーが秘められているのだろう。さらに、どんな気象条件のもとでも誤差なく目的地まで飛ぶ術をどうやって身に着けたのだろう。科学者はこれらの疑問にいまだ確かな答えを得られていないという。
小さな鳥が、子孫を絶やさないためにそんなに頑張っているんだから、俺も頑張らないといけないな、と思う。自分の持つ体力や知力を使って、懸命に生きてゆかなければならんのだ。だが一方で、巣から顔を出しているツバメの一家を見上げながら、「お前たちは気楽でいいよな~。過去のことを悔やんだり、将来のことを心配することもなく、毎日えさを獲ってさえいればいいんだから…」とぼやきたくなるのは私だけだろうか。
実際、衣食住のことを心配しながら生きている生きものは、地球上でヒトだけである。地球の支配者然と振る舞ってはいるが、日々、生活上の思い煩いを抱えながら生活している。ガソリンの売上げが減ってくると、この世の終わりのような気分になり、あす、自分の命がどうなるかさえわからないのに、5年後、10年後にGS業界はどうなってしまうんだろうなどと心配して、寿命を縮めたりしている。
ツバメのように何も考えずに大空を飛び回れたらさぞかし幸せかもしれないが、平均寿命は1年半程度だとか。10年以上生きる個体もあるそうだが、渡り鳥であることや、小型のため多くの天敵にさらされることがその要因とされている。GS業界も、資金力のある猛禽類が市場を制圧しており、零細店はツバメのようにひっそりと巣籠りしてして、何とか日々の糧を得てゆくしかない。
ツバメといえば大型連休明けの先月14日から16連敗を喫したヤクルト・スワローズ。悲惨だった。GS業界も、連休明けから減販ペースに一段とギアが入ったという嘆き節をあちこちで耳にする。ツバメはやがて飛び立ってゆく。梅雨空もいつかは朝ドラ、じゃなかった「なつぞら」に変わる。GS業界には青空が訪れるだろうか。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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