最近、世間を騒がせている「闇営業」。多数のお笑い芸人が、反社会的勢力の会合に参加し、金銭を受け取っていたことが発覚、「雨上がり決死隊」宮迫博之や「ロンドンブーツ1号2号」田村亮などの人気者たちが、所属事務所から活動停止の謹慎処分を受けた。事件発覚前に収録された出演番組については、出演部分が削除されるなどして放送されている。「アメトーーク」や「ロンドンハーツ」なんて、どうやって放送するんだろうと思っていたが、見事に当該人物の映像・音声をカットしつつ、違和感をほとんど感じさせずに番組が進行していた。編集技術おそるべし。
批難の矛先は芸能事務所にも向けられた。とりわけ、最大手「よしもとクリエイティブエージェンシー」は、管理体制の甘さと同時に、これまでも所属タレントがしばしばネタにしてきた給料の安さが、こうした問題を引き起こす温床になったのではないかと指摘されている。ビートたけしは、テレビの報道番組で、「闇営業をしなきゃ食えないような状態にする事務所もおかしいと思う。最低限の金銭補償くらいすればいいなと思うんだけれど」と吉本興業に苦言を呈した。
“闇”と聞くと、いかにも怪しい行為を連想させるが、芸人のあいだでは“直”と呼ばれていたらしい。文字通り、所属事務所を通さずに出演し、報酬を受け取ること。例えば5万円で飲み屋でネタをやる仕事があったとして、事務所を通すと半分の2万5千円は事務所に持っていかれ、コンビだと2人分の税金が取られて残るのは2万円。分けると1万円ずつしか入らない。5万円ぐらいなら“直”でやって小遣いにしたい、と考えても無理はない。今回の事件で、それぞれ百万円と五十万円を受け取ったという宮迫と田村は別格として、他の芸人たちは3~10万円だったというから“これぐらいなら”という軽い気持ちだったかもしれないが、相手が本当の闇社会の人々だったのだから、しゃれにならない。
闇というワードで思い出したのは、山口良忠という判事のこと。彼は敗戦後の食糧難の時代に、闇市の闇米を一切口にせず、食糧管理法で定められた配給食糧のみで生活した結果、栄養失調により肺結核となり、1947年、33歳の若さで死去した。山口の手記には、食糧管理法は悪法であるが、法を司る立場にある自分が、闇米を食べるわけにはいかない旨の心境が綴られていたという。彼のことを“馬鹿正直”と嘲笑することは容易いが、自分の良心に忠実に従ったという点においては立派だったといえる。ただ、前述のビートたけしのコメント同様、“闇”に手を出さなければ生きてゆけない社会というものを何とかしなければならないのも事実だ。
GS業界においては、さしずめ業転製品が闇米に相当するのかもしれない。元売の仕入れ値ではとてもやって行けない。しかも、その元売の直営店が、仕入れ値と同じか、それより安い価格の看板を出している現状に、たまらず“闇ガソリン”を購入して対抗する。別にいかがわしい製品などではなく、同じ油槽所から出荷されている「無印良品」だ。かつては、不純物で薄めた本物の“闇ガソリン”を扱って利ざやを稼いだ悪徳業者もいたと聞くが、いまは厳格な品質検査がなされており、そうした業者は駆逐された。その点では、GS業界はお笑い業界よりは浄化されているといえるかも。
謹慎中の芸人たちは、今後処分が解かれ、復帰するとのことだが、果たして彼らが立つステージが残っているかどうか。自分たちがいなくても、芸能界は日々オンエア中で、新たな才能が次々に見出されてゆく。あれほど群がっていた人々が、潮が引いたように去ってゆく。そんな地獄が待ち受けているかもしれない。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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