『LINEが24日発表した2019年1~6月期の連結決算は最終損益が266億円の赤字(前年同期は29億円の黒字)だった。売上高にあたる売上収益は11%増の1107億円だった。5月にスマホ決済「LINEぺイ」で、利用者同士が1000円相当を送り合えるキャンペーンを実施し、約300万人の新規利用者を獲得したが、これらの費用負担で営業損益は218億円の赤字(前年同期は103億円の黒字)になった』─7月24日付「日本経済新聞」。
加熱するQRコード決済事業者の顧客獲得競争、すなわち、キャッシュバック競争の激化が損失を拡大させている。LINEのパートナー企業でもあるメルカリも、2019年6月期の連結業績予想で137億円の損失を出す見通しであることを発表。こちらも本業は好調であるものの、モバイル決済サービス「メルペイ」のプロモーションコストがかさんで損失を出している点でLINEと共通している。
10月の消費税増税に伴う「キャッシュレス・消費者還元事業」で優位に立とうと、いまは“損して得とれ”でやっているんだろうけれど、1千億円もの利益を食いつぶしてなお200億円もの損失を出すなんて、尋常じゃないなと思う。この消耗戦が、消費者還元事業が続く来年6月まで繰り広げられるんだろう。問題は、そこまでして獲得した顧客が将来の収益を本当に生み出すのかどうか。「○○ペイ」の先にある収益モデルについて、各社は投資家に説明すべきだろう。
GS業界も、20年以上前には石油元売十数社が販促費をつぎ込んでの集客合戦に明け暮れ、 シェア争いを繰り広げていた。系列の代理・特約店は、 ボリュームがすべて、利益は後から付いてくると信じ、テッシュペーパーをはじめ、いろいろな景品をばらまき、現金会員の獲得に血道を上げていた。だが、獲得した顧客をどのように固定化し、そこから収益をあげるかという戦略が描けないまま、市場は縮小の一途をたどり今日に至っている。
最近のスマホ決済アプリの乱立とキャッシュバック競争を見ていて、かつてのGS業界の狂乱を思い出した。いろいろなキャンペーンを企画し、いろいろな固定化システムを考案し、いろいろなを再来店サービスを実施した結果、たどり着いた“真理”が「ガソリンは結局価格」だと分かったときの虚脱感。元売からの販促援助金という“キャッシュバック”を頼みに経営してきたGSは、元売から梯子をはずされた途端、脱落していった。当の元売も特石法廃止を境に、一社、また一社と姿を消していった。
「ペイ」を謳う業者は、いまや25社ぐらいあるそうだが、よもやかつてのGS業界のようにはならないだろうと思いつつも、「ペイ」を選ぶ基準が「キャッシュバック」になってしまったら、この業界も地獄を見るな、と感じる。自動車に乗っている人は、否応なくどこかのGSで給油しなければならないが、スマホを持っている人が皆、決済アプリを使うわけじゃない。はじめは使っていても、使わなくなる人もいる。移り気な消費者の心を繋ぎとめ、なおかつ利益を上げてゆくための本当の競争はまだこれからだ。
さしずめ、いまの「ペイ」業界を取り巻く環境は、江戸時代末期の慶応3年(1867年)8月から12月にかけて、日本各地で発生した「ええじゃないか」騒動に似ているかも。だれが、どんな目的で行ったのかいまだ諸説あるそうだが、とにかく空から御札が降ってきて、民衆は「ええじゃないか」と連呼して熱狂的に踊り狂ったという。いまのキャッシュレス化推進や、それに伴うキャッシュバックやポイント還元の大盤振る舞いも、私たちの金銭感覚を狂わせようとする作為を感じる。いずれにせよ、来年のいまごろには大凡の答えが見えていることだろう。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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