vol.769『GSだけの責任か』

前回のコラムで、最近、店頭や窓口などで“キレる”高齢者が増えているようだと書いたあと、こんなニュースが。

『総務省消防庁は26日、京都アニメーションの放火殺人事件を受け、ガソリン販売の規制を強化する方針を明らかにした。携行缶などに入れて販売する場合は、購入者の身元や使用目的の確認を事業者に義務付ける。関係省令を改正し来年2月1日施行を目指す。消防庁は7月、身元確認などの徹底を事業者に要請したが、ガソリンスタンドの従業員が購入者に身分証の提示を求めても拒否されるケースがあり、事業者側が「確認は義務であることを法令で明確にしてほしい」と求めていた』─10月26日付「時事通信」。

“めんどくさ…”というのが即座の感想。「何にお使いになるんですか?」と尋ねて、「うるせえな!」とキレられたら、「法律で決まっているので」と言っても聞き入れてもらえないだろう。ましてや、そんな相手に身分証(恐らく運転免許証)の提示を求めようものなら、「俺を犯罪者扱いするつもりか!」とますます逆上するかもしれない。

以前、コンビニなどで、店員の応対に言いがかりをつけ、土下座を迫ったうえ、金品を要求するという事件が続発したことがあった。最近では、あおり運転という“路上のクレーマー”にいつ遭遇するとも限らないようなご時勢だ。“心配し過ぎ”と一笑に付すことはできない。法律さえ作れば大丈夫と言うわけには行かないのだ。

それに、身分証を確認し使用目的も聴取できたとしても、それで京アニのような事件が防げるわけではない。ガソリンを撒き散らして火をつけるなんざ、もはや自爆テロの類であって、身元を明らかにする事を躊躇などしないのではないか。使用目的を尋ねたところで、「これから火を付けに行く」と“正直”に申告するはずもない。そして、ガソリンを手続きを踏んで購入さえすれば、そこから先はどこでどう使われようが知る由もない。

もし身分や使用目的の確認を拒むような客がいれば、これはもう即座に警察に通報すべきだろう。ただし、見かけない客ならそれも出来るが、しょっちゅう買いに来る客だと“顔パス”で販売してしまうかも。改正された法令をどこまで厳格に運用しなければならないのか、買う側売る側双方にどの程度の罰則が適用されるのか─。

前にも書いたことだが、そもそもガソリン携行缶が、通販やその辺のホームセンターで買えてしまうことが問題なんじゃないか。携行缶を販売する際に、身分証の提示を求める(通販の場合は認証コードなどを入力する)ことで、どこのだれが何個の携行缶を購入したか管理できる。ビッグデータを活用すべきだ。携行缶の許認可権を持つのは危険物保安技術協会(KHK)という特別民間法人で所管官庁は総務省。いわずと知れた消防庁の監督官庁でもある。認定証を交付して儲けるだけじゃなく、その売り先も責任持って監督してもらいたいものだ。

自動車業界にも、ガソリンを容易に抜き取れないような構造のタンクを設計してもらうよう協力してもらったらどうか。発電機はディーゼル式に、草刈機は電動式に統一すればいい。とにかく、京アニ事件のような惨事を二度と引き起こさないためには、役所や様々な業界がスクラムを組んで、二重、三重のハードルを設けるべきではないか。GS業界だけにその責任を課したところで、抜本的な対策になるとは思えない。元売さんや石商さんも、もっとGS現場で働く人たちの事を考えていただきたい。

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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