vol.786『理性的になろう』

やはり、東京オリンピックの開催は見送られた。一応、来年の7月に開催する予定だそうだが、それまでに新型コロナウイルスが封じ込められているかどうか。オリンピック開催を見込んだ様々な計画はすべて中断。経済的な打撃は甚大だが、もはやそんなことを言っている場合ではない。人類の存亡をかけた闘いが繰り広げられているわけで、世界の指導者たちも、倒産件数や失業者数を気にかける余裕など無くなりつつある。

政府の自粛要請によって、音楽や演劇を生業としてきた人たちは生活の糧を失おうとしている。ある劇団員が、テレビのインタヴューで、演劇のようなものは、人々を元気付けたり、慰めたりするものだと思っていたのに、結局、人間が生きてゆくためにどうしても必要なものではないことを思い知らされたことが一番ショックだ、というようなことを言っていた。

不安や心配で心が押しつぶされそうな人たちが大勢いるいまだからこそ、そういうものが必要なはずなのだが、ウイルスに感染すれば元も子もない。多くのアスリートやアーチストたちは、無力感に打ちのめされていることだろう。だが、やがて彼らの力を必要とする時がやってくるだろう。その時まで、あきらめずに研鑽に励んでもらいたいと思う。

とにかく、毎日“コロナ、コロナ”でうんざりなうえ、外出もままならないとなれば、イライラしてくるに決まっている。商売がうまく行かなくなり、憤りをぶつけたくなる人もいることだろう。冷静になれ、というほうが無理かもしれないが、やはり理性的であるべきだ。ミラノのある高校の校長先生は、休校にあたって生徒たちに次のようなメッセージを送ったそうだ。とても思慮深い内容なので一部を紹介すると─。

『感染の広がりが速いのは、発展した文明の結果です。それを止める壁がないことは、数世紀前も同様で、ただその速度が遅かっただけです。このような危機における最大のリスクは、人間が作る社会が毒され、市民生活が荒れること。目に見えない敵に脅かされた時、人間の本能は、あたかもそこらじゅうに敵がいるかのように感じさせ、私たちと同じ人々までもを脅威とみなしてしまう危険があります。14世紀と17世紀のペスト流行時とは異なり、現代の私たちには確実で進歩し続ける医学があります。社会と人間性、私たちの最も貴重な資産であるこれらを守るために、文明的で合理的な思考をしましょう。もしそれができなければ”ペスト”が勝利してしまうかもしれません』─。

パニックや差別、あいまいな情報に飛びつくことの愚かさについて諭す、示唆に富んだメッセージだ。“志村けんを殺したのは中国人だ”というような低能なヘイト投稿をする人たちがいるそうだが、そういう憎悪が広まり、社会が分裂すれば、まさに悪魔の思うつぼだ。人類は「文明的で合理的な思考」でこの難局を乗り切れるかどうか試されているのだ。

それにしても、3ヶ月前にはだれも予想しなかった大患難。GS業界は、食料品と同様ガソリンや灯油は生活必需品なのでそれほど甚大な影響は無いだろう、と楽観視していたかもしれないが、やはり今月は売上が相当落ち込んでいるようだ。そうでなくとも、この何年か下降曲線を描いていたところに、この災禍。案の定、市況は崩れ出し、各地で120円台を切りはじめている。和歌山市内では、PBスタンドがオープン価格として90円台の看板を出し、近隣の店が対抗するというパニック状態が発生している。まあ、和歌山市内のドライバーにとっては有難いことだろうが、だからといって遠出でもしようか、ということにはならないわけで、もうちょっと理性的になれないものかなと思う。まだまだ、先は長い…。

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
(このコラムに関するご意見・ご感想は、FAX 0561-75-5666、またはEメール wadatradingco@mui.biglobe.ne.jp まで)

 


〒104-0033
東京都中央区新川2-6-8
TEL: 03(3551)9201
FAX: 03(3551)9206