4月20日のNYMEX5月限月原油終値には驚愕しました。55.9㌦安の「マイナス37.63㌦」です。取引最終日に貯蔵能力不足から売りパニックになったようです。
モノの値段でマイナスということは、1買えば売り手さんから37.63㌦戴けるということです。1㍑25円です。こんなこと起こるんですね。
冗談ですが、COCのPB会員と「次の仕入れは商社の入金を確認してからオーダーしたら」と言っておきました。「逆転のCOD」(キャッシュオンデリバリー)です。
6月限月に変わった翌日には20㌦台に一時戻ったと思いきや一時6㌦台に大暴落、本稿執筆時点で14㌦台です。
世界の石油需要は1億BDだったものが、コロナ禍で2500~3000万BDも減少しています。前回書きましたがOPECプラスが1000万BD削減しても足らないうえに、WTI暴落を招いた貯蔵能力の限界に直面しています。
一方、EIAによると米国は4月第3週時点で、原油生産は1200万BD台が維持されています。製品供給が700万BD減っているのですが、原油・製品ともに輸出が増加しているわけではありません。どこに溜めているのでしょうか。
マイナス原油相場は1日とは言え歴史上初の椿事です。ダニエル・ヤーギン「石油の世紀」にある馬鹿みたいな本当の話を思い出しました。不景気のさ中に原油が過剰供給になったので現状と背景が似ています。
第1次欧州戦後、米国は漁夫の利の経済成長もあって原油不足に陥ります。石油会社はもちろん一獲千金を狙う海千山千が原油採掘に躍起になります。
詐欺師もあまた出現します。コロンバス・ジョイナーという人物が原油鉱区の投資詐欺で大儲けします。どうも人間はあぶく銭を持つと正業に関わりたくなるようで、東テキサスで自ら開発に乗り出します。探鉱技師から鉱区を手に入れるのですが、技師もまた詐欺師です。詐欺師が原野商法に引っかかったのです。
ところが掘ってみたら大ビンゴ!で世界最大級の油田が吹き上がります。しかし時は世界恐慌の真っさなかです。原油市場は大暴落します。20年代にバーレル3㌦前後だった相場は、30年代前半に「4㌣」に崩落します。原油を一買うとオレンジが1ダース貰えたそうです。SS業界得意のモノクレはこの時に始まったようです。
ジョイナーの油田はジャイアントと呼ばれ、原油を当てる人たちの代名詞になります。ジェームス・ディーンの名作映画「ジャイアンツ」もジョイナーの油田発掘をモチーフにしています。そしてジョイナーは全米で有名人になったがために、投資だけでなく結婚詐欺まで発覚しています。
石油の歴史に思うのは、メインキャストが官僚や紳士ではなくこわいオッちゃんであることです。そもそも石油産業の始祖とされるドレークが大佐の経歴を詐称していました。現在の石油市場のキーマン3人、米国とロシアの大統領、サウジの皇太子も見た目が怖い方面です。
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脱線してしまいました。前回の本稿で「ガソリン半減のシナリオを想定しても無駄にはならないでしょう」と書きました。大げさに考えるシナリオを考えるのも悪くないだろう、程度の感覚でした。
しかし、系列店経営者に聞いたら首都圏の4月は30%前後の減販になりそうといいます。東京都心は米国並みの5割減だそうです。3月は自然減プラスαと見ていますが、4月は目に見えて客数が減っています。
3割減販は単純に売上げ3割減、粗利益額3割減です。前月代金の決済で資金ショートもすでに起こっているようです。資金調達は融通が利く情勢ですが、コロナが退治されないと縮小均衡のスパイラルも続きます。ゴールデンウイークが気になります。
COC・中央石油販売事業協同組合事務局