『ホンダが今年度から始めた早期退職制度に、2000人以上が応募したことがわかった。国内従業員数の約5㌫にあたる人数で、EV(電気自動車)の開発加速などに合わせ、技術者などの世代交代を進める。対象は55~63歳の正社員で、4月から5月中旬まで募集していた。人数の目標は設定していなかった。応募者には、退職金を上乗せ支給し、再就職先を探す活動も支援する』─8月5日付「讀賣新聞」。
ホンダは2040年に世界で販売する新車の全てをEVとFCV(燃料電池車)にする目標を掲げており、次世代車の開発加速と、人員構成の見直しといった構造改革を並行して進めるため、20年前に一度は廃止した早期退職制度を今期から復活させたとのこと。ホンダは2017年には定年の延長も導入していたのだが、EV化の波によって多くの従業員が人生設計の変更を余儀なくされてしまった。コロナ禍での再就職、なかなか大変だろう。
それにしても、今年4月にホンダが事実上の“ガソリン車全廃宣言”を行った時には、本当にそんなことできるの?と眉唾だったし、企業イメージをあげるためのアドバルーンとの声もあったが、その後、EUがガソリン車(HVも含む)の新車販売を35年までに禁止する方針を打ち出したり、独メルセデス・ベンツが30年にもすべての車種をEVにするなど、市場はホンダが想定した以上のペースで進んでいる。
欧州の自動車メーカーが、前のめりと思えるほどにEV化を進めるのは、地球環境への危機感などではなく、恐らくEVの主導権を握ることで、世界の自動車市場でのアドバンテージを取ろうとしているからなのだろう。米バイデン大統領は5日、 「2030年までにアメリカ国内販売の新車40~50㌫を電動化する」との大統領令に署名、出遅れを挽回しようとしている。この「電動化」にもHVは含まれておらず、日本車メーカーは今後の事業計画を早急に立て直す必要がありそうだ。
トヨタも2030年にHVを含む電動車比率を約8割にするという目標を掲げているが、基本的にはHVで台数を稼ぐ戦略であり、EV・FCVの比率は低い。一方、ホンダが目標を達成するためには2030年の段階で約4割、35年には8割をEV・FCVにしなければならない。これはかなり野心的な目標なのだが、かつてホンダは似たような挑戦をし、見事に成し遂げた歴史がある。
1970年代に米国で制定された「マスキー法」によって、厳しい排ガス規制をクリアできないメーカーは米国市場での販売ができなくなったのだが、創業者・本田宗一郎は、「我が社はマスキー法をクリアしてみせる」と宣言、CVCCエンジンを開発し、世界にその名を轟かせた。だが、これが本田の“花道”ともなった。その理由についてホンダは次のように語っている。
『CVCCの開発に際して、私は、ビッグ3とならぶ絶好のチャンスだと言った。その時、若い人たちから「自分たちは会社のためにやっているのではない。社会のためにやっているのだ」と反発された。いつのまにか私の発想は企業本位に立ったものになってしまっていたのだ。若いということはなんと素晴らしいことか。みながどんどん育ってきている』─。
今回のホンダの挑戦が、この“本田イズム”の成せるものであるとすれば、ひょっとすると、20年後にホンダはトヨタを抜いて日本一の自動車メーカーになっているかも。あるいは、トヨタでもホンダでもない、いまはまだ誰も知らない企業が、「エンジンを持たない自動車」メーカーとして君臨しているかもしれない。本田自身、かつて自動車業界が「特振法」によって統制されようとした際、通産省の事務次官・佐橋滋にこう言って噛み付いている。
『おれにはやる(自動車をつくる)権利がある。既存のメーカーだけが自動車をつくって、我々がやってはいけないという法律をつくるとは何事だ。自由である。大きな物を、永久に大きいとだれが断言できる。歴史を見なさい。新興勢力が伸びるに決まっている。そんなに合同(合併)させたかったら、通産省が株主になって、株主総会でものを言え!』─。
本田宗一郎が亡くなって今月5日で30年が経った。いま生きていたら、どんなことをやってのけるだろうか。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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