すでに報じられていますが、ENEOSが東京世田谷区駒沢に「ENEOSマルチモビリティステーション」を開設しました。あるニュースメディアは、「『給油できないENEOS』登場ガソリン類販売一切ナシ未来のGS?」と見出しを打っています。
お洒落なキャノピーの下で、キックボード、自転車、バイク、小型EVと電動車両だけを揃えたシェアリングステーションです。
石油会社が石油を売らないステーションを作ったので、メディアの関心を引いています。東京23区内のような「特殊な市場」では利用者もいるのでしょうね。
このステーションは新規事業であり、もう1つの意味を持っているように思います。特約店へのメッセージです。「ガソリンだけの特約店の時代じゃないよ」です。“脱石油”へ特約店に意識転換を求めているはずです。そして「今まで同様に電動事業にお付き合いしてね」でしょう。
もっとも、「電動化」という世界に入ったとたん、石油特約店は特別な存在どころか有象無象の1つに過ぎなくなります。誰でもできますから。電動車を用意できる資金と駐車スペースがあれば私でも参入できます。
そして日本の石油自由化の前年に創業した中国のBYDが、四半世紀で世界第2のEVメーカーに成長しました。今年は日本市場で価格競争を挑んできます。
電動車はともかく、カーシェアリングは当たり前のように目にします。
私が住む周辺は急激に宅地化が進んでいます。新しい低層マンションがあって1階に耳鼻科医院と調剤薬局が入っています。駅に近いうえに向かいが生鮮スーパーなので生活環境は至便です。10台分の駐車場があります。うち2台分がタイムスシェアリングの専用スペースです。
マンションから40代の男性が出てきて、ICカードをリアウィンドーに描かれた読み取り部分にタッチして開錠しました。愛車に乗るように自然な動作です。タイムスはこのマンションを好立地と読んだのでしょう。
立地について私はこう見ています。SSは「前面交通量」とか「後背商圏」が重要な要因となります。一方、シェアリングは利用者の「移動ニーズ」に寄り添っているようです。
例えば北関東では、車が足ですからシェアリングニーズは限定されます。しかし、栃木県JR宇都宮駅直近にタイムスは10カ所のシェアリングステーションを配備しています。
栃木県民に利用ニーズは少ないはずです。要は新幹線で降り立つビジネスマンが中心顧客です。宇都宮は郊外に広がっている街なので営業車として利用されています。タクシーより安上がりで効率的に営業できます。ここに着目して何年も前から、新幹線とセットになったサービスを提供しています。
シェアリングで法人顧客が4割を占めるのもここに理由があります。東京都心から走っても渋滞で時間が読めません。電車で行って現地でカーシェアないしレンタカーを借りた方が効率的に仕事ができます。
2022年9月末で、大手5社だけでステーションは1万4983カ所、車両は3万7847台です。1ステーション当たり2.5台ほどです。私が見た低層マンション駐車場と同じです。そして元々駐車場業者としての強力なインフラを持ち断トツで走るタイムスは同年9月、会員数が200万人を突破しました。公表データを逆算すると「会員50人で1台」を利用します。大げさに言えば、カーシェア1台で乗用車保有台数を50分の1にできる計算です。
私はEVよりもカーシェアの拡大が、油外収益を含めたガソリン市場に及ぼす影響が大きいと感じています。
COC・中央石油販売事業協同組合事務局