出光興産が豪州で独立系燃料販売会社トリニティ社を買収しました。
年間15万㌔㍑を卸・小売する会社です。モービルブランドで21SSの他、輸送、船舶油、潤滑油事業を展開します。豪州では2012年にフリーダムエナジーを買収しており、同社がトリニティ社を吸収します。
そのフリーダム社は農需に強い大規模流通業者です。出光が買収時点で年間扱い高65万㌔㍑でしたが、その後の事業報告で80万㌔㍑に伸ばしています。豪州東部沿岸に9カ所の製品輸入ターミナルを持ちます。トリニティ社買収で100万㌔㍑となり、約2%のシェアと想像されます。
ターミナルのうち4カ所をBP、2カ所をエクソンモービル(EM)、1カ所をカルテックスが利用しています。
豪州の石油精製能力は2011年の74・2万BDが16年には45・2万BDに縮小しています。ここ数年で8製油所中4カ所が閉鎖されました。
一方、石油消費は2013年の104・6万BDが漸減して16年で103・6万BDと日本より歩留まりの良い成熟状態です。そしてお手本のような“ショートポジション”、精製能力は消費量の半分以下です。
つまり、供給の半分を製品輸入でまかなっています。
出光はベトナムニソン製油所が竣工し、最近通油されたと記事にありました。豪州での買収も、当然、ニソン製油所の受け皿拡大の一環です。今後、アジア地域の販売網拡充が同社の主要戦略となるでしょう。
また、同社は米国でも2010年に流通業者NWP社を買収しています。西海岸カリフォルニアとカナダに十数か所の陸上ターミナルとパイプライン網を持つ大手ジョバーです。買収当時年間250万㌔㍑の販売量でしたが、5年間で400万㌔㍑に伸ばしています。
ベトナムと豪州、豪州と米西海岸の連絡線は環太平洋の物流戦略上極めて重要な布石となります。先の大戦でもこの2つの兵站線を巡って戦われています。
◆
全てを確認できませんが、先のフリーダム社のSSはPBです。NWP社はエッソです。トリニティ社はすべてモービルマークです。
出光は国内においては系列ブランド重視戦略であり、JA以外の商社経由の流通を好まないと言われます。一方、海外では製品流通中心に自社ブランドにこだわらないという「ダブルスタンダード」にあります。
豪州ではEMもBPもフリーダム社の輸入基地を使っています。精製不足分をシンガポール等から製品輸入しています。つまり業転買いです。日本の品確法流に言えば、十日に一度の品質検査が必要です。(シンガポールが品質を担保すれば年1回ですか…)
また、豪州でRDシェルは商権を売却しましたが、買収したビトル社はSSでシェルブランドを維持しています。シェルは必要とする人に「ブランド貸し」をしているわけです。
どうも世界の石油市場で、やたら系列にこだわり、業転の経路を探っては供給を絞るようなことやっているのは、日本の業界だけのようです。これって“ガラパゴス”じゃないでしょうか。
メジャーの方がはるかに柔軟な流通戦略に見えます。出光も一歩海外に出たら、やっていることは日本の燃料商社と変わりません。フリーダムもNWPもトリニティも、日本流に言えば「業転屋」です。皮肉ではなく、これが世界のスタンダードということです。
日本でもさらに精製統廃合が続きます。豪州ほどでなくとも、ショートポジションに向かっています。そして確実に製品輸入による供給補完が不可欠になります。その時、ターミナルを元売が独占するのか、豪州や米国のように流通業者が台頭するのか。それによって「次世代」の景色が変わります。
COC・中央石油販売事業協同組合事務局