COCと独立経営<767> セールスルームの資産価値 – 関 匤

新型コロナ禍で2020年秋から、リモートによる研修会を継続しています。

自由化以降、優秀な人材が大量に流出してしまった石油業界ですが、まだまだ捨てたものではなくSSの潜在能力と可能性にこだわるプレゼンターがいます。「協調だ」とか「油外〇百万円」という話ではなく、時代と環境の変化に対応して業態を再構築して地域の消費者に支持されながら働く人が幸せになれる店づくりの提案です。

私は前回の原稿で「給油取扱所のこだわりよりも給油空地に価値をつける」旨を書きました。

残念ながら石油村で声の大きい人たちはガソリン(給油取扱所)の議論に御執心です。だから、コストコにしても給油空地(倉庫店)で集客して利益をあげる業態の本質を考えずに、「安売りのガソリンスタンド」と見てしまいます。ガソリン需要はピークから3割縮小しています。給油取扱所の資産価値が3割落ちたと言い換えることができます。だから、資産全体で価値を作るという考え方が不可欠と言えます。

研修会のプレゼンターは「セールスルームを見直そう」と提唱しました。セールスルームを徒歩入店者歓迎の飲食スペースに転換したSSのケーススタディを紹介しました。

学生のNPOを巻き込んだビジネスモデルに感心しました。目を引かれたのはSSに送られた女性客の感想のツイートでした。「SSの事務所とは思えない雰囲気云々」とありました。

業界人は「セールスルーム」(以下SR)と呼んでいるけれど消費者には「事務所」なのです。”ここ事務所じゃなかったの?”と驚いているわけです。つまり、消費者にとってSRとは、会社に関係のない人は出入りの禁制の空間と認識されているのです。

昭和時代のSRには、ガラスケースにワックスなどケミカル商品が陳列され、向かい合わせの革張りソファが置かれていました。POS導入以前は、机を並べた経理の女性が購入ごとに帳簿を記録していました。まさに「事務所」でした。

そして、お得意客が来ると店長がソファに案内して缶コーヒーを出して煙草をお勧めしていました。SRは銀座のクラブのように「選ばれた顧客」だけが寛ぐ場所であり、一見客は御法度の雰囲気プンプンでした。

消防法が緩和されてバブルのカネ余りが重なった頃に、SRの見直しがブームになったことがあります。ただし、極端な方向に向かってしまって一流ホテルのような店内装飾や大理石のトイレが出現しました。SS経営者は金持ちなので、世俗と感覚がずれているのでしょうか。

しかし、バブル崩壊と特石法撤廃後の市場環境変化で維持できず、気が付けば昔のままのSRに戻っていました。

コンビニやカフェあるいはコインランドリー併設は1つの正解といえます。セルフ監視コストを埋没化もできます。ただし、まとまった投資額に加えて、コンビニなどFCビジネスは個人経営を前提に設計されています。だから、FC加盟者によるコミッションエージェントには最適と思います。

その昔、日本石油社員から聞いたのですが、SSデザイン変更時に著名な海外デザイナーを招聘したそうです。彼は日本のSSを熱心に見学してから、こう言ったそうです。「悲しいくらいに混乱している」

その象徴的な存在がSRではないでしょうか。しかし、これは中小企業の貴重な資産なのです。研修会で地方都市のフルサービス一SS店が、決して豪華ではないけれど実にセンスの良い、デザイン事務所のようなSRに作り変えた事例がありました。地域の方が気軽に立ち寄れる場所であり、同時に車検や車販など大事な商談を気持ちよく行う場所となっています。給油来店したお客さんに油外を売りつけるような商売と一線を画したい、が動機だったそうです。

思いついたのですが、一度、SRの全ての貼り紙やポスター類、什器備品を取っ払ったうえで、ゼロベースから組み立て直してはいかがでしょうか。

COC・中央石油販売事業協同組合事務局


〒104-0033
東京都中央区新川2-6-8
TEL: 03(3551)9201
FAX: 03(3551)9206