英国がガソリンパニックで大混乱しています。EU離脱でEU圏の出稼ぎ運転手に厳しいビザ発給条件が求められて、10万人規模で大量帰国してしまったことに起因します。もともと問題視されていたところに、bpが一部SS閉鎖を発表したことがパニックの引き金となったそうです。
在庫があるのに運べないというパニックは、東日本大震災時に関東でも起こりました。東京湾で2社の製油所が停止したこと以上に、某大臣が地元福島にローリー50台を運び出して“脚不足”に陥ったことが要因でした。製油所に在庫があっても運べなかったのです。英国と同じです。
災害対応型SSを幾ら作っても“サプライチェーン”を幾ら叫んでも、運ぶ脚=ロジスティクスを欠いては無用の長物です。
以前から書いていますが、本気で緊急時の安定供給を考えるならば、元売直送体制だけでなく流通サイドからの物流機能も保持すべきです。東日本震災時にCOCのPBは自社ローリーを在庫のある場所に縦横に走らせて、SS在庫切れを起こさずに給油制限もなしに販売できましたから。
英国では少なくとも50%以上のSSが営業を停止しているそうです。日本経済新聞9月28日7:30更新の電子版記事に英国マンチェスターで営業するSSに車列が並ぶ画像がありました。「TESCO」のSSです。石油会社ではなく流通系の有力ハイパーです。よく見ると画像の隅に石油会社のロゴのない無印ローリーが映り込んでいます。TESCOは独自の物流で調達して営業していることは間違いないでしょう。
資源エネ庁や業界お歴々は口を開けば「安定供給」を錦の御旗のようにおっしゃられますが、彼らに欠落しているのは流通サイドが持つ物流機能の評価です。危機が来れば“白いネコでも黒いネコでも石油を運ぶのが良いネコ”という本質論がないのです。「欲しい人に届けること」が安定供給の原理原則じゃないでしょうか。
だから、持ち届け物流に依存していたら、肝心な時によくても「枠出荷」、あるいは特定の大型SS以外には届けない「選別出荷」の洗礼を浴びます。これは過去に何度も経験したことです。安定供給論が画餅に堕さないためにも、倉取り物流の有効性を考えるべきです。
ただでさえ高齢者の一斉退職でローリー運転手が不足しています。英国の事件は対岸の家事ではありません。
物流で運転手不足が問題になっています。国交省は以前から検討と実証実験を重ねて「トラック無人運転」の実現に動いています。
YouTubeで「高速道路におけるトラックの後続車無人隊列走行技術を実現」を検索すると、今年3月に新東名長泉沼津IC~浜松いなさICの約140㌔㍍で行ったトラック3台の隊列走行実験動画を見ることができます。
先導車に運転手が乗り込み、始動操作を始めると後ろの無人車両も自動的に連動します。先導車が隊列を制御していますから、速度に合わせて車間距離も最適に保たれます。
過去の実験では無人車両の運転席に人が座っていましたが、3月の実験では助手席に座っており運転席は無人です。80㌔㍍で9mの車間距離がきれいに維持されていました。
「2025年度以降の高速道路におけるレベル4自動運転トラックの実現を目指し、高性能トラックの運行管理システムについて検討」ということです。自動運転と無人走行となれば、1人の運転手が3台を運航できることになります。送り手と受け手の連携も不可欠になりますが、画期的な物流効率化です。
新型コロナは水面下の様々な革新を一気に顕在化させています。石油に限らず広く物流の安定を図るためにも、また、英国と同じ轍を踏まないためにも無人隊列走行の実現を大胆に進めてほしいと思うところです。
COC・中央石油販売事業協同組合事務局