COCと独立経営<781> 「標準価格制度」の宿痾⑨ – 関 匤

24日からの卸価格2円前後の値上げ通告が来ています。資源エネ庁設定ガソリン小売価格が170円台に乗りそうです。「激変緩和措置発動」になるのでしょうか。

個人的には政府の価格介入は好ましくないと考えています。ただ、元売再編以降の卸価格の変動性=ボラティリティが硬直化しているように見えるので、原油高を放置すれば青天井で小売価格が高騰することも考えられるので難しいところです。上げは一直線、下げはチョイ出しと感じるのは私だけでしょうか。

石油連盟統計で2021年11月のガソリン販売は前年比94.9%でした。コロナ前の19年同月比較では90.3%です。2年で一割減少です。

21年は3月から7月までの需要は回復基調にありましたが、8月以降は腰折れしています。明らかに原油高によるガソリン高が効いていると思われます。激変緩和措置が消費者にどういうアナウンス効果を持つのでしょうか。またしてもの「まん延防止」が主要地域で行われることも需要に影響します。

◇   ◇

標準価格時代の話です。1986年、外圧によって通産省は規制緩和に踏み切ることになりました。そのスイッチとなったのが、神奈川県の無印店ライオンズ石油がシンガポールから製品輸入を行ったことでした。ガチガチの規制時代に大変な「事件」となりました。

経営者は「佐藤太治」という人で30歳でした。今の石油業界で、30歳の経営者で製品輸入を考える人は皆無でしょう。

飛び込みセールスの住宅営業のやり手で、そこそこ蓄積した頃に、東京浅草でSS売り物件を見つけます。信金から借金して系列サブ店で開業します。1976、7年の頃と思いますが、当時は「現金高掛売り安」の時代でした。後発の佐藤氏は優良法人客は掴めないので、現金客を集めるために安売りを仕掛けます。今も昔も安売りは「問題」です。

しかもコンプライアンスの概念もなかった当時、露骨な営業妨害があります。何台も連ねて給油来店して、1㍑給油で1万円を出すやり方です。この辺は私が勝手に書いているのではなく、国会でも問題となり議事録に残っています。

後に佐藤氏は無印となり、神奈川県相模原市で大暴れします。供給に圧力がかかり、一時韓国ルートといわれたガソリン税のかからない疑似ガソリン・フエルを販売します。フエルが広域に流通して、これを問題視した大蔵省が「みなし課税」したため頓挫しています。詳しい経緯は書きませんが、この時期、私は期せずして“フエル退治”で資源エネ庁に協力しています。

正規ガソリンの安定供給を求めた佐藤氏が踏み切ったのが、製品輸入でした。シンガポール石油から5千㌔㍑が大阪堺港に着桟しました。しかし、佐藤氏は取引銀行から突如融資打ち切りを宣告されて、通産省の斡旋で元売に買い取って貰うことで幕引きとなりました。

一方、この事件は通信社から広く世界に発信されたために、小さな政府を目指した米国レーガン・英国サッチャー政権から日本の閉鎖性と非難されることになりました。

誰も言いませんが、佐藤氏の輸入頓挫から1カ月ほどで「特石法」(特定石油製品輸入暫定措置法)が成立します。きわめて短い審議期間で成立したのは、佐藤氏の事件と海外批判回避のためだったのでしょう。

佐藤氏は後に元売の特約店となり、同社から相当の資金を引っ張ったようです。最後は契約解消となりましたが、潤沢な資金を元手にレンタルだったビデオ業界でセル(販売)専門のチェーン店を立ち上げます。ある時期、新規流通の寵児と持て囃されてテレビにも出演していました。

しかし脇の甘いFCチェーンで問題が多発して倒産。さまざまなFCをやっていましたが、数年前、シェアハウス「かぼちゃの馬車事件」で経済マスコミの間で名前が出ました。

昔出た著作で、佐藤氏は輸入頓挫の際に当時の石油公団で数億円の口止め料を貰ったと暴露しています。ガソリン高時代ゆえの利権に抵触したことが佐藤氏の後の人生を左右したのは間違いありません。

なおYouTubeで検索すると佐藤氏の「金儲け学園」という凄いタイトルのチャンネルが出てきます。

 COC・中央石油販売事業協同組合事務局


〒104-0033
東京都中央区新川2-6-8
TEL: 03(3551)9201
FAX: 03(3551)9206