元売会社の2021年度は未曽有の好決算となりました。
ENEOS営業利益7859億円、出光4345億円、コスモ2353億円と大手3社合計で約1兆5000億円に達します。ただし、在庫評価益を除くと3社合計で約7800億円とほぼ半減しています。
昨年からの資源高に加えてロシアのウクライナ侵攻とロシア石油ガスの禁輸という外的な材料が元売決算を押し上げたことになります。時局柄不謹慎な表現ですが、在庫評価益ダメ押しの功労者はプーチンで間違いないでしょう。
さて、佐藤太治氏のユーチューブです。
いわゆる盛った話もあると思いますが、彼の話で「当時の石油業法は“届け出制”だから必要書類を届ければガソリン輸入できると思った」というのは正直に話しているようです。
そもそも今でもそうですが、SS数カ所の中小企業経営者しかも30歳の人が行政指導とか法律解釈などに関心を持つことはありません。関心は日々の売上げと社員の労務管理です。佐藤氏はもともと飛び込みの住宅営業上がりですから、ガソリンを売ることに前のめりになっています。
安売りで量販するのですが、さすがに元売のゼネラル石油から行き過ぎを牽制されます。結果的に、巨額の転籍料を貰いながら無印になります。彼は大阪堺と千葉市川に油槽所を借りて、JIS規格を外れた石油化学品のBTX主体の「フエル」を韓国から輸入します。ガソリンの定義外なのでガソリン税がかかりません。
最初はかなり大儲けしますが、勢い余って卸売りで拡販を図ったところ、業界で大問題となります。なにしろ当時の大蔵省が黙っていません。「ガソリン類似品への見なし課税」となってフエルの価格優位性は崩れました。
そこで前回述べたように、ゼネ石時代の特約店旅行でシンガポールで出会った国営石油会社にダメもとで連絡したら「本当のガソリンを輸出する」という話になります。
そして前述の「届け出で輸入できる」話になります。彼は資源エネ庁石油部計画課を直接訪問して(当時は受け付けなく入室可能)、「ガソリン輸入したいので申請用紙下さい」と申し出ます。対応した課員は「はぁ~」だったそうです。
消費地精製主義原則に強力な行政指導が展開されて元売も原則輸入できない時代です。そこに相模原の中小企業経営者が輸入申請ですから、ありえないことが起こってしまったようです。
門前払いされながら何日も通ううちに、計画課長の高橋達直(みちなお)氏が対応します。この人は作家の故・堺屋太一と同期入省でした。佐藤氏によれば「佐藤さん、勘弁してよ。供給でお困りなら元売紹介しようか」と言われたそうです。けっこう理解と同情を示す態度だったのですが、佐藤氏によると実は1カ月後に栄転が決まっているので後任者任せの時間稼ぎをしていたようです。一方、高橋課長の部下からは「届け出でも審査するのは我々だ」と圧を掛けられたそうです。
佐藤氏がガソリン輸入すれば消費地精製主義の大原則が崩れてしまいます。それと大きな“爆弾”が炸裂します。私が過去に書いた「標準価格の宿痾」です。ガソリン独歩高・中間安を第一次石油危機以来、なし崩し的に続けているわけです。
そこに佐藤氏が「国際価格のガソリン」を輸入したらどうなるか。佐藤氏がぼろ儲けするだけでなく、世界中の石油会社が対日ガソリン輸入に殺到します。帰りの船には、日本のとびぬけて安い中間品をたっぷり積み込んで。日本は草刈り場になります。
届け出したらガソリン輸入できるという30歳の青年の無邪気な行為は、国策という虎の尾を踏んでいたのです。
佐藤氏は届け出で輸入できると思った
出典:佐藤太治氏YouTubeサイト
COC・中央石油販売事業協同組合事務局