群馬県北部に利根郡川場村があります。人口は3200人。統計調査では1955年の約5400人をピークに漸減してきました。人口密度37人。数字だけ見れば典型的な過疎地です。
資源エネルギー庁の「市町村別に見るSS過疎の状況」でも、「SS2カ所グループ」に堂々とノミネートされています。
しかし、この村は1889年の町村制施行以来「村」のままで維持されています。平成の市町村大合併でも独自の生き方を選択しています。
どころか、区民の健康増進で提携していた東京都世田谷区との統合を画策したこともあります。
160㎞も離れた東京都の飛び地が群馬県内に出現するのは行政上の問題ありとして実現しませんでした。村のままで維持されるのは「区民の健康増進」につながる、豊かな自然を生かしている強みにあります。
地場人口は3200人ですが、年間200万人が集まっています。「道の駅川場田園プラザ」の集客力です。しかも何年か前は120万人、その後150万人、180万人と年々来訪者が増え続けています。
村外からの来訪客を含めると、この村の昼間人口は約1万人に達します。
地場農産品の魅力もさることながら、人口減少の過疎地であるからこそ、大胆に空間を使って自然を借景とした非日常的なリゾートに作りこんでいます。
「永井彰一社長は、多くの来場者を引き寄せる空間づくりの狙いを、『人は2時間滞在すると、何かを食べたくなるもの。そのため、長い時間滞在して楽しんでもらえるようにしている』と説明する」(日経トレンディ)
10年ほど前のデータで同駅の年商は10億円、現在は20億円に達していると推定されます。訪問客の7割がリピーターになるそうです。
この道の駅にはJAのセルフSSが隣接しています。
川場村のSSは2カ所です。人口から推定すると、地場ガソリン需要は月間60~70㎘程度でしょう。しかし、ほぼ全ての来店客が自動車を利用する道の駅の集客力を加味すると「月に200㎘以上」の需要が生じている計算となります。
SSだけの集客力は60㎘ですが、道の駅というコンテンツが需要を3倍以上に押し上げています。SSは最寄り商圏に限定されますが、魅力のある道の駅は商圏半径を100㎞以上に拡大します。いわば日本版COSTCOです。
こういう事例を眺めるに、エネ庁が声高に叫ぶ「SS過疎化対策」なるものですが、SSだけで考えても無意味です。
市町村別SS数を作っては「SSのない町がある。大変だ!」と騒いでいますが、石油村の人たちはポンプを設置すれば“SS過疎化問題”なる問題が解決されると信じているようです。
肝心なことは、地場人口やSSの数ではなくて地域への集客力をつくることです。SSゼロの町にいても、10㎞先の町に道の駅のような便利で楽しい施設にSSがあれば、車は簡単に市町村界を突破しますから。
その意味で「道の駅」は有力なコンテンツであり、過疎地であることが魅力となって都市からの来訪者を増やします。国交省は「道の駅第3ステージ」として2025年までの構想を進めています。第1、第2ステージでは「通過する車両へのサービス提供」から「道の駅自体が目的地」となり、第3では「地方創生・観光を加速する拠点へ」を掲げています。
広域に道の駅が提携し、関連するサービス、システム、防災機能まで巻き込んで地域のセンター化を進めています。インバウンドの外人観光客を増やすことも視野に入れています。
石油村よりも国交省に任せれば、SS過疎化は違った方法論で解消されそうです。
COC・中央石油販売事業協同組合事務局