カーケアでめざましい実績を挙げる繁盛店の経営者とお会いしました。
セルフSSでガソリンもそれなりに販売しているのですが、経営者はガソリン価格には頓着していません。キャッシュフローとカーケア見込み客の集客がガソリンの役割と割り切っていました。
というのも、粗利構成比に占めるガソリンの割合が10%台になっているからです。
「ガソリンは立地・処理能力・価格のハード要因で決まる。セルフ給油は飲料自販機と一緒。自宅軒下に置くよりも駅や高速道サービスエリアの“立地”で売れてしまう。セルフSSも同じで、好立地の元売直営やフリートに給油客が流れるから、当社は当社の立地で売れる数量を貰うしかない」
という考えで、ガソリンは低粗利でも市況並みで売ってカーケア見込み客を維持しながら、収益性の高い車検と車販を主体にやってきた結果、ガソリン粗利依存度が低くなったということです。こういうSS経営の考え方は、最近よく見られるようになっています。
経営者が自助努力で利益を作れない、コモディティのガソリン依存を下げることは中小企業の理にかなっています。ガソリンに経営を振り回されないですから。
一方、この経営者はSS業態の物理的限界を感じています。
現在多くのSS業態は、昭和時代の元売標準型から変わっていません。自由化後に大型化されてはいますが、セルフで500~600坪といった規模です。
そこに車検や車販を意欲的に追求すると「現状のSS規模では間に合わない」と言うのです。
例えば、車販に本腰を入れる場合、中古車であれば店頭展示車両が不可欠になります。販売目標にもよりますが、10台売るなら10台程度の展示が必要でしょう。しかし、一般的なSS業態は車両展示を想定していませんから厳しいですね。
「月販5台の壁」というか、熱心に車販に取り組むSSでも月5台が限界と聞きます。もちろん物理的要因だけでなく、成約から引き渡しまで1人のスタッフが忙殺されるとか評価制度の問題もあります。
逆に、ウィカーズなど専門店は数百台の展示在庫を置いています。すでに車販事業を本格化しているオートバックスなどカーショップも、インフラとして展示スペースを持っています。彼らは車の専門組織で動いています。
車販に限らず、SSはガソリン主体の構造であり、何か収益事業を行う時に“給油スペースの壁”に直面します。また、セルフ洗車も動線スペースが必要です。給油空地の利用が緩和されても、収益事業の拡大をスペースが阻害します。
企業成長を目指すには、月5台の車販や月20台の車検では到底無理です。それぞれ5倍を目指さないと、属人性の高いカーケアに優秀なスタッフは集まりません。
先にオートバックスの名前を出しましたが、同社は今年50周年だそうです。
カーショップという新業態が登場して以降、SS業界がトップシェアを誇っていたカーアフターマーケットは、凄まじい勢いで新業態に吸収されていきました。50年前、SSはオイルシェア70%を超えていました。Google-AIによると現状は21%ということです。
50年前の競合業態出現以降も、元売は昭和30年代の発想でアフターマーケットを考えて、あくまでガソリン給油主体の業態を革新できませんでした。そのツケが、真面目にカーケア繁盛店に挑戦する人たちの足を引っ張っている、とは過言でしょうか?
COC・中央石油販売事業協同組合事務局