『政府は、来年10月の消費税率10㌫への引き上げに伴う経済対策の一環として、中小店舗でキャッシュレス決済をした場合に消費者に増税分(購入代金の2㌫)をポイントで還元する制度を検討している。消費者が代金を現金ではなくクレジットカードなどで支払うと、次の購入に使えるポイントがもらえる仕組みだが、小売り現場や決済システムを運営するカード会社からは不満の声が噴出。増税までに準備が間に合うかも不明だ』─ 11月2日付「毎日新聞」。
増税による消費落ち込みを防ごうと、唐突に出てきた感のあるこのポイント還元サービスだが、これを機会に、キャッシュレス決済のためのインフラ整備を一気に進めようとの政府並びに金融業会の思惑が透けて見える。カード業界を所管する経産省は、今年4月に発表した「キャッシュレス・ビジョン」の中で、キャッシュレス決済の比率を2025年までに4割へ高める目標を掲げている。東京オリンピックを前に、訪日外国人の消費を取り込む環境整備の狙いもある。
しかし、「中小」企業をどう定義するかといった議論はこれからだ。政府は、大手コンビニチェーンとフランチャイズ契約を結ぶコンビニ店舗は、資本金などが5000万円以下か従業員が50人以下の「中小小売業」とみなせるので、ポイント還元の対象にする考えだそうだが、じゃあ直営店はどうなの?ということになる。同じ「セブン-イレブン」で対応が違ったら、消費者は混乱する。同じことは、ガソリンスタンドにおいても生じるだろう。ていうか、そもそもどの業種がポイント還元対象業種となるのかすらまだ決まっていない。
それらの線引きがなされたあと、今度は、カード会社が各加盟店に対してポイント還元の対象店かどうかの振り分けを行い、システム対応しなければならない。カード会社からは「はたして今から間に合うのか」と施策の実現を危ぶむ声があがっているという。しかも、ポイント還元は期間限定。そのためだけにシステムを変更するのはナンセンスという意見も。おまけに、経産省は加盟店手数料の引き下げをカード会社に求めており、今回のポイント還元サービスは、カード会社にとって“追い風”になるどころか、コストはかかるわ、収益は抑えられるわで、むしろ“向かい風”ともなりかねない。
肝心の国民は、この施策についてどう思っているかといえば、共同通信社が行なった最新の世論調査で、「反対」が62㌫、「賛成」が30㌫という結果だったとのこと。消費税引き上げそのものの賛否はほぼ半々だったのに対し、ポイント還元は圧倒的に「反対」。まだまだ、クレジットカードに対する抵抗があるのだろうか。実際、クレカを持とうとしない人は私の周りにもいる。ある人曰く、「あれは借金だ。俺は借金はしたくない」と。「何かを買う時、人は痛みを感じなければならない。そうすることで、物やサービスの価値を認識し、お金を賢く使うことができる。ところが、クレジットカードで払うとその痛みを一時的に忘れてしまう。それが怖い」─。
事実、ある調査によれば、クレカを使うことによって、平均20%以上支払いが増えるという。つまり、コントロールすべきお金に、自分がコントロールされてしまう危険性があるということ。それが、いわゆる“消費拡大”の実態だとすれば、私たちはいずれ手痛いしっぺ返しを食うことになるのではないか。この国の人たちの多くは、何となくそういうことを感じているものだから、「クレカを使うぐらいならポイントなんかいらない」という態度を取っているのかもしれない。マスメディアは、「キャッシュレスはこんなに便利」みたいなことを散々煽っているけれど、案外人々は冷めているんだなぁと思った次第。
少し前までは、キャッシュレスといえばクレカのことだったが、いまや電子決済ツールも様々なうえ、どんどん変容している。キャッシュレス化の波に乗り遅れまいと、その都度端末を更新しなければならない中小小売店の経済的負担は決して小さくない。できることなら、“いつもにこにこ現金払い”のご時勢が続いてほしいと思うのは私だけだろうか。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
(このコラムに関するご意見・ご感想は、FAX 0561-75-5666、またはEメール wadatradingco@mui.biglobe.ne.jp まで)