米原油市場で先物価格が史上初めて、買い手がつかない「マイナス取引」となった。“石油が全然売れないから、備蓄しておく場所も器も無い。タダでいいから引き取ってくれ”というわけで、投売り状態になったらしい。第一の要因は、コロナウイルスの感染拡大による大幅な需要の減退だが、サウジとロシアが増産競争を始めたことが、暴落に輪をかけた。コロナウイルスのインパクトを甘く見たというべきか。ただ、これは一過性の現象に過ぎず、市場は低水準ながらも緩やかに回復するというのが大方の見方だ。
ともあれ、やはりコロナウイルスが終息しない限りは、人や物の移動は回復せず、石油は売れ残り状態が続くことになるだろう。実際、全国に緊急事態宣言が発令されて最初の週末は、多くのGSで閑古鳥が鳴いていたようだ。いっそのこと、営業時間を短縮するなり、休業するなりしたほうがいいのかもしれないが、店を開けていればポツリポツリとでもお客さんが来るので、日銭稼ぎで開店しているような状態だ。そもそも、テレビでも『どこそこのガソリンスタンドは通常通り営業しています』なんてテロップが流れたことはただの一度もなく、やっているのが当たり前の扱いだ。
原油価格が暴落するのをよそに、今週に入って愛知県では店頭価格の是正が行なわれている。地域によっては110円台を割り込んでいるため、何とか利益率を上げ、需要減による損失を補おうとの思惑で、120円台に回復させたようだが、恐らく今週末にはまた元に戻るだろう。ボリュームにこだわり、価格競争を激化させ、結果的に自分の首を絞める─ 産油国の首脳の思考も、愛知県のあぶら屋共の思考も、それほど大差ないなと思う。(自虐)
とにかく、安くしたところで売れるものじゃないんだよ。いい加減、気づけよ、と言いたい。相手は、国境も、人種も、宗教も、イデオロギーも関係なく、収入の差、学歴の差、身分の差などお構いなしに感染するウイルスだ。人類が長い年月をかけて築き上げてきたシステムを、わずか3ヶ月で破壊してしまった恐るべき敵が現れたのだ。“コロナになんか負けてたまるか!がんばるぞー”と街頭インタビューで気炎を上げている人がいたけれど、気持ちはわかるが、残念ながらいまのところ人類はこの未知の敵を前に、敗走に次ぐ敗走だ。
こんな状況の中で安売りしたところで、お客がそれに釣られて来店するわけがない。名古屋市では自動車の交通量が3割近く減ったそうだ。これを激安ガソリンの効力で回復させる自信があるというのなら、どうかがんばってもらいたい。結果は間違いなく「マイナス取引」だ。悲しいかな、我々の商売は、価格以外にこれといった差別化を図れるものがないのも事実。しかし、いまは減少量を、利益率を上げることでしのぐしかない。未知の敵との戦いは、まだ始まったばかりで、もしかしたら、この先何年も続くかもしれない。長期戦に備えて、いまこそ持久力を蓄えるべきではないだろうか。
それにしても、お客がパッタリと来なくなってしまった、かつての“行列のできる店”の惨状や、内定を取り消されてしまって途方に暮れている若者の様子などをニュースで見ると、まさに人生は“一寸先は闇”だなと思う。しかも、このたびの闇はかなり深い。身体的にも、精神的にも、経済的にもどこまで耐えられることやら。私自身、今週は気分が憂鬱で、コラム書くのをやめようかとも思ったが、休載すると“あいつコロナに感染したのかな?”と思われるかもしれないと思って、何とか書きました。(自慢)
先日見た映画で、こんなシーンがあった。ひどく落ち込んでいるヒロインを、男ともだちがこう言って励ます。「知ってる?“空が暗ければ暗いほど、星は明るく輝く”って」 「いい言葉ね。だれが言ったの?」 「ダイエットのコマーシャルさ」─。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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