vol.841『またまた正念場』

『政府が大阪など3府県への重点措置適用を決めた今月1日、基本的対処方針分科会の尾身茂会長は「昨年春も正念場という言葉を使ったと思うが」と前置きした上で、「今は高齢者にワクチンが届く6月ごろまでが正念場だ」と訴えた』─4月17日付「時事通信」。

「正念場」というのは歌舞伎や浄瑠璃などで主人公がその役の性根(しょうね)を発揮する最も重要な場面、つまりクライマックスを指す“性根場”という語に、本気・信念を意味する“正念”という概念をミックスさせた語だとのこと。映画ならクライマックスが何度もあるのは面白いが、コロナ対策での「正念場」乱発には閉口するしかない。

昨年2月に国内で初めて感染が確認された時、政府の専門家会議は「この1~2週間がまさに正念場、瀬戸際だ」と発信したのが最初だと記憶しているが、その後「勝負の3週間」など、何度も“正念場”が到来し、緊張感が薄れつつある。映画でいえば、カーチェイスシーンばかり繰り返され、退屈してきちゃうような感じ。今後は、「感染者を何人減らせば、これができるようになる」といった明確で達成感のある目標を社会で共有するといった“参加型正念場”ともいえるような形で国民に飽きられないようにする工夫が必要だとの声もある。

確かに、コロナ感染者が減少傾向にあった今年1月下旬から3月上旬の間に、「感染者数ゼロまであと□□人」と毎日アナウンスして啓蒙するとか、市町村で感染者数一人当たりの人口数の多さを競い、インセンティブを支給するなどして、もっと参加型の抑制キャンペーンみたいなものをやっていたら、もうちょっと抑え込めたかもしれない。むかし石油元売が盛んにやっていたハイオク販促キャンペーンみたいだけれど…。

愛知県も20日から名古屋市で「蔓防」が発令されることになった。「緊急」を解除した途端に第4波となってしまい、すぐまた「緊急」は出しづらいので、とりあえず主要都市に「蔓防」発令となったのだろうが、早晩「緊急」に切り替えざるを得ないだろう。今月、ある地方都市のシステム更新工事を行う予定だったが、名古屋と大阪から作業チームが来県することにお客様が不安を抱き、大事を取ってGW明けまで延期した。変異種による第4波がどれほど拡大するのか非常に心配である。

結果的に、今回も政府のコロナ対応は後手に回ってしまったようで、ネットではずいぶん前から「兵力の逐次投入」だと非難されている。「逐次投入」と聞いて、多くの人は太平洋戦争中に日本軍がガダルカナル島で犯した大失敗作戦を思い浮かべることだろう。ガ島に上陸した米軍の規模・火力を過小評価し、戦力を小出しに投入した結果、無残な敗北を喫した話は余りにも有名。コロナ対策として、「アベノマスク」に始まり、昨年度だけでも10兆円近い予備費を投入したにもかかわらず“無駄”だの“遅い”だの“少ない”だのと散々な言われようで、挙句いまだ収束ならずという状況。

ところで、今月から、コロナ対策の一環として「事業再構築補助金」という支援制度が始まった。『申請前の直近6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計売上高が、コロナ以前(2019年または2020年1~3月)の同3ヶ月の合計売上高と比較して10%以上減少している中小企業や個人事業者を対象に、新規事業を立ち上げたり、業態転換を図ったりするための資金を規模に応じて支援する』というもの。概要書にある活用イメージ例として、喫茶店が「飲食スペースを縮小し、新たにコーヒー豆や焼き菓子のテイクアウト販売する」とか、ヨガ教室が「室内での密を回避するため、新たにオンライン形式でのヨガ教室の運営を開始する」などとあるが、ガソリンスタンドは「新たにフィットネスジムの運営を始め、地域の健康増進ニーズに対応する」とあった。

いやいや、ここはやっぱり「コロナ感染機会を減らすため、スタッフと接触しないセルフ方式に改造する」などとするのが定石ではないですか?何で「新たにフィットネスジム」?あくまでイメージ例とはいえ、まるでGSはこれから減らしてゆきたいから、この機会に本業に見切りをつけ、別の事を始めなさいと言わんばかりで少々心外だ。コロナ禍がGS業界にとって「正念場」を通り越し「愁嘆場」とならない事を願う。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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