興行業界最大の団体である「全国興行生活衛生同業組合連合会」(全興連)は、「緊急事態宣言の延長に伴う映画館・演芸場への休業要請に対して」という見解を6日に発表した。それによると、昨年12月1日以降の通常営業でも、劇場等での観客席側での感染事例は1件も確認されていないにもかかわらず今回の緊急事態措置による休業要請はそれらの実績を考慮に入れていないと訴え、一定の制限下の元で緊急事態宣言下でも営業を続けさせてほしいと陳情している。
パンデミック下の世界で人々の生活様式は大きく変わった。だが、エンタメ業界はまだその変化に対応できないまま、苦しい経営状態を続けている。2020年、日本の映画興行収入は、1、432億8、500万円。史上最高(2、611億8、000万円)を記録した2019年に比べ、ほぼ半減の54.9%。興収を計測しはじめた2000年以降、最低の数字となった。『鬼滅の刃』(2020年10月16日公開)が空前のヒットとなったにもかかわらず、である。観客数の制限、上映回数の減少、感染対策の設備費等に加え、映画館の売上げのかなりの比率を占める飲食が激減したことが大きいという。
私は映画鑑賞が趣味だが、もとから映画館で観るのが好きではない。まず料金。サービスデーでも鑑賞料は1、000円ぐらいするが、レンタルDVDなら旧作10本ぐらい観れる。ビデオ鑑賞なら、 お気に入りのソファに寝そべって鑑賞できるし、トイレに行きたくなったり、電話がかかってきたりしたら一時停止できる。何より、近くの席でゴソゴソ、ムシャムシャと飲食され、映画に集中できないという悲惨な経験をせずにすむ。
“映画は劇場で観るのが一番”とのたまう人は、大きなスクリーンと迫力ある音響をその理由に挙げる。確かにそれは映画館でしか体感できないものだが、所詮愚作・駄作の類は、大画面・大音響をもってしてもその評価は変わらない。逆に、『ゴッドファーザー』のような名作は、22インチのテレビとヘッドホンでも十分感動できる。いい映画であればあるほど、誰にも邪魔されない自由な空間で楽しみたい。
そんなわけで、映画好きながら映画館嫌いの私にとって、コロナ禍にわざわざ劇場に足を運ぶなんて考えられない。むしろ、この機に配給会社は、新作を劇場を介さずネット配信によって公開する方式を拡大すべきだと思う。実際、この方式だと映画製作会社は従来売り上げの5割程度だった取り分が8割程度まで増えるとのことだ。すでに、米国では動画配信大手「ネットフリックス」が、独自の新作映画を劇場で封切るのと同時、あるいはわずか数週間程度の時間差でネット配信している。その中には『アイリッシュマン』のようなアカデミー賞候補となる作品も。「ネットフリックス」はコロナ禍による巣ごもり需要が追い風となり、会員数が大幅に伸び、史上最高益を更新している。
英国の大女優 ヘレン・ミレンが、「映画館に座って、暗くなっていく瞬間に勝るものなどない」と語るなど、映画関係者の多くは映画館の必要性を訴えているが、映画のオンライン上映の流れはもう止まらないと思う。1960年代にテレビの普及と共に激減した映画館は、コロナとネット配信によって再び淘汰されてゆくことになるだろう。
…と、偉そうに映画興行について物申したが、我が業界はどうかといえば、映画産業よりもずっと危機感が低い。確かに緊急事態宣言下にあっても、いまのところ営業自粛など求められずにいるが、今後の感染状況次第では人流がさらに減衰し、販売量が激減しないとも限らず、先の見えない薄氷を踏むような経営が続いている。また、映画産業同様、我々も技術革新によって大きな岐路に立たされている。EV化の波がひたひたと迫ってきているのだ。しかし、いまだ具体的な方針は明らかになっておらず、EVスタンドは早くも減少傾向にある。一体この先どうなってしまうのか…。多くのGS経営者は漠とした不安を抱えながら、いまだSF映画を観ているような心持ちではなかろうか。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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