『2019年7月の「京都アニメーション」放火殺人事件で規制が強化されたガソリン販売を巡り、各地の消防機関がインターネットでの販売業者について把握しきれていない実態が判明した。総務省消防庁はガソリンスタンドでの販売と同様に購入者の身元確認などを求めているが、多くの業者が小規模とみられ、定期点検の対象になっていない。専門家は「ネット販売が抜け穴になっている」と警鐘を鳴らす』─7月16日付「毎日新聞」。
たった一人で36人の人命を奪った日本犯罪史上最悪とも言われる放火テロ事件から丸2年が経った。この事件を受け、昨年2月には携行缶へのガソリン販売の規制が強化され、客の身元や購入目的の確認などが義務づけられた。だが、今年3月には、徳島市でアイドルグループのライブが行われていた雑居ビルに、38歳の男がガソリンを撒いて放火するという事件が起きた。その後の捜査で、男はセルフスタンドで乗用車に給油する際、後部のトランクのドアを開けて、監視カメラの死角となったところで携行缶にガソリンを給油したと見られており、関係者は衝撃を受けているという。当該GSは、「最後まできっちり確認できていなかったというのは反省点。会社としても事態を重く受け止めている」として、人員を増やしたり、カメラをより精度の高い物に交換するなどして監視を強化してゆくとのことだが、やはり限界はあるだろう。いっそのこと、スタッフ給油にしたほうがいいのではとも思える。
いずれにせよ、この手の事件をGSだけの努力で100㌫防ぐことは無理な話だ。ちなみに、私の店に携行缶持参で来店するお客さんは、ほぼほぼ“常連客”。軽トラに乗ってくる高齢者の方々の使途は概ね耕運機か草刈機。よもや放火に使うなどとは想像できないのだが、絶対にあり得ないとも言えない。結局、包丁や金槌と同じで、持ち主の良心に委ねざるを得ないのだ。
とはいえ、冒頭の記事のとおり、ネットによるガソリン販売については、消防機関の指導・規制が全く及んでいない実体が報じられている。『実際、備蓄用として缶入りのガソリンをネット販売する神奈川県の業者は製造元が他県にあり、「他県の消防から指導が入ったことはない」と説明。まとめて10リットル以上を販売することもあるが、購入者に使用目的などを聞くこともないという』─。
確かに、「PayPayモール」では、「非常用ガソリン缶詰 レギュラーガソリン1リットル缶4本セット」が堂々と売られている。価格は税込み3、980円プラス送料880円で、1㍑1、215円とめちゃくちゃ割高ではあるが、購入に当たり使途についてチェックされることなく簡単に購入できる。商品情報の欄には「災害が発生してからガソリンを調達しようとしてもガソリンスタンドまでの移動手段がないなどで調達が困難になることがあります。発電機などの非常用電源などと一緒に保管しておけばとても便利です。当然 自動車、オートバイなどにもお使いいただけます」とある。
もっともな目的ではあるが、GSでは厳格な確認作業が義務付けられているのに対し、ネットでの販売はまったくの性善説を前提に販売されており、行政のチェックが入らないというのはいかがなものか。早急に具体的な措置を講じるべきだが、一連のコロナ対策を見ていてもわかるとおり、この国のお役所は前例の無い事象、とりわけデジタル的な問題に対してはどんくさいことこのうえない。
東京・新宿の駐車場消火設備事故しかり、千葉・八街市の交通事故しかり、大きな事故が起きてから慌てて全国の警察・消防が該当施設を点検するという“儀礼”が繰り返されているが、今後はAIを駆使して事故を防ぐことに注力すべきだとの声が高まっている。病歴・犯罪歴に加え、購買履歴や検索履歴もAIが分析し“この人物は何ヶ月以内にこれこれの事件(事故)を起こす可能性アリ”と判定して公安当局に情報提供し、惨事が起こるのを未然に防ぐ─。教条主義者が聞いたら憤激すること間違いなしのディストピア的発想だが、もはやそれぐらいのことでもしないと、悲惨な事件を防げないのではないか。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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